第35章 呪縛の炎-ケイコク-
《…そんなことがあったのですカ。》
「…うん、流石に身の危険を感じた」
《怪我はなかったのですカ?》
「大丈夫。少し…転んだだけ」
部屋で独りになると漠然とした不安が襲い掛かってくる。二階に降りはしたものの、隼人の部屋を訪ねるのは流石に躊躇われ、彼女に電話をしたというわけだ。
彼女に聞くと、長谷君は出掛けているのだと云う。彼が出るかも知れないと身構えていたが、彼女だったので安堵した。
《…首の跡を見られたと云うのは本当ですカ?
やはりスカーフだと外れ易いんでしょうネ。》
「隠さんに…気味が悪いって…言われちゃった…。だから…隠してたのに…」
《詩遠は気持ち悪くありまセン。》
「有難うクロエ…。でも…やっぱり怖い。他の人達も隠さんみたいな反応だったらって思うと…怖くて仕方ないの」
隼人がこの跡を見たら…どんな顔をするだろうって…いつも思う。こんな汚れた体…知られたくない。軽蔑されて嫌われたくない。
「彼が私に触れる度に思うの。触れられたいのに触れられたくないって…。こんな…汚れた体、彼はきっと軽蔑する」
《……………》
「嫌われたくない…っ」
スマホを耳に当てたまま、涙を流す。
《…詩遠、泣いているのですカ。》
「泣いて…ないよ」
茜色のピアスに触れる。これはもう無意識だ。直そうと思っても、もう直らないだろう。
《今、ピアスに触れましたネ?》
「!?」
《…なんとなく分かるのでス。》
「……………」
《きっと貴女の想い人は、貴女を嫌ったりしませんヨ。軽蔑したりなんかしまセン。》
「…どうして分かるの」
《言ったでしょう。仕事中の貴女とその想い人を見掛けたト。貴女は嬉しそうに笑っていましたが…同時に彼も、とても優しい眼差しで隣を歩く貴女を凝視めていましたヨ。》
「!」
《そんな彼がどうして貴女を嫌うのですカ?貴女は彼を信じていないのですカ?》
「信じてるよ!でも…今まで会った人達は…私の首筋の跡を見て…おんなじ反応だったから…もしかしたら彼もって…思っちゃうの」
《貴女は…弱虫で臆病者で泣き虫デス。》
ズバッと言い捨てられる。彼女の容赦ない辛辣な言葉に私は落ち込んだ。
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