第35章 呪縛の炎-ケイコク-
「…そういえば、色々あって忘れていたわ。手紙に書いたあの運動、ちゃんとやってる?」
「え!?」
「…小瑠璃ちゃん、もしかして詩遠ちゃんにも送ったの?」
「まさかツグミちゃんも…」
どうやら柾さんはツグミちゃんにも送ったらしい。私は慌てて両手を旨の前で振る。
「こ、これ以上成長すると今ある服が着られなくなります!ので…だ、大丈夫です!」
「確かに…立花さんって柔らかそうね」
「小瑠璃ちゃん!?」
じーっと胸を凝視され、私は思わず両手で胸を隠すようにクロスする。
「や、あの…わ、私よりツグミちゃんを…!」
「え!詩遠ちゃん!?」
「あ、ああそうだ!私、先に戻ってご飯の支度しなきゃ!」
「手伝うわよ、それより運動…」
「こ、紅茶も淹れておかなきゃ!あぁ忙しい!忙しくて猫の手も借りたい…!じゃ、じゃあ!」
勢いよく方向転換し、目にも留まらぬ速さでアパートに掛けて走った。
「…逃げられたか」
「もう…意地悪しちゃ駄目よ」
「だって可愛いんだもの。あんなに顔を赤くして取り乱して…ふふ」
「(でも確かに詩遠ちゃんは私より…)」
ちらりと自分の胸を見下ろした。
✤ ✤ ✤
「(はぁ…びっくりした)」
台所の電気をつけ、足を踏み出す。
「うわ────っ!?」
ぬるっとした何かに足を滑らせ
床に思いっきりお尻を打ちつける。
ぷん、と濃密な油の臭いがした。見ると少し先に瓶が倒れていて、中の油が総て床に零れ広がっていた。
「な、何これ…」
滑って手をついたせいで、掌や足が油で濡れ光り、制服のスカートまで染み込んでいる。
「誰!?こんなところに瓶を置きっ放しにて!これじゃ掃除と洗濯が大変…」
「…どうかしたかい?」
「!?」
はっと顔を上げると、台所の入り口に隠さんが立っていた。
「おや」
彼はそう言ったっきり、何も言わない。ただ油まみれの私を見下ろしているだけだ。
「…だ、誰かが…油の瓶をしまい忘れたみたいで」
私は立ち上がろうとした。けれど両手と膝がぬめり、よろめいてしまう。
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