第35章 呪縛の炎-ケイコク-
───午後8時。
用意した号外を総て配り終え
私達は帰路についた。
「今日は沢山撒けたわね!」
「うん、みんなに手伝ってもらえて本当に良かった。今度、改めてお礼をしないと」
「明日撒く分の準備も進めてるから。とにかく今は一枚でも多く受け取ってもらわないとね」
「…そうだ、小瑠璃ちゃん」
「ん?」
「もしかして…あの号外って、小瑠璃ちゃんが初めて書いた…もの?」
「いやだ、読んだの」
「…おめでとう!!」
「まぁ、葦切先輩には感謝しておくわ。病院のベッドでなんか寝てるから私に手柄を取られるのよ」
「…そんな言い方して」
「だから意識が戻ったら自慢するつもりなの。貴方の後輩は頑張りましたよ、一人前ですよって」
「(彼女は本当に強い…)」
「もう足手纏いだとも邪魔だとも、新米だからとも、女だから駄目とも…言わせないんだから」
彼女は滲んだ涙を荒っぽく拭う。
「絶対に意識戻るよ。……信じよう?」
「水垢離でもしようかなと思うくらいに祈ってるし、信じてるわ」
「その時は私も付き合うから呼んで」
仲睦まじい二人を見ていると、まるで瑞稀と私を見ているかのような幻覚に囚われる。
「ところで立花さん?」
「はい?」
「先刻一緒にいた殿方はどちら様?」
「へ?」
「ほら、茜色の瞳をした彼よ。随分と親しいように見えたけど…もしかして…」
「ち、違います!彼とは学生時代の友人です!
今日もたまたま会っただけです!」
「たまたま、ねぇ…」
「な、何ですその笑みは!別に彼とは何にもありませんよ!?ただの友人です!」
「彼、すっごく美男子だったわね」
「まぁ…モテますからね」
「ふーんへーえなるほどぉ…」
「(絶対誤解してるよ…)」
「隣にいた女の子も友達?」
「あの子が話してた友達だよ」
「!」
「そうだったの。可愛いお友達ね」
「有難うございます」
「それで茜色の彼とは…」
「ですから友人ですってば!」
「あら、そうなの。残念」
「顔が笑ってますよ、柾さん…」
「気のせい気のせい」
笑みを浮かべる柾さんに
私は居心地の悪さを覚えた。
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