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たとえば君が鳥ならば【ニルアド】

第34章 彼女の提案-ヨワムシ-



「いや、もちろん私だって痛ましいとは思っているよ。だが彼と君は、親しいというわけでもなかったろう?尾崎君の先輩というだけで」



「それは…そうですが…」



「それともまさか…あの男に特別な思い入れでも?」



「!?そんな言い方しないで下さい!」



「………………」



「幾ら隠さんでも…それは…あんまりです」



「…そうだろうか。それは申し訳ない。
私はたった一度会っただけなのでね」



「…あ、そ…そうですよね…。すみません…私も似たような経験をしたので…他人事には思えなくて…」



「どういうことだい?」



「学生の頃、とても親しかった友人を亡くしたんです。窓から転落して即死でした。なので葦切さんを心配する柾さんの気持ちが…あの頃の私と重なって思えて…キツい言い方でした」



「そうだったのか…君も友人を。転落ということは…足を滑らせたか何かで?」



「(稀モノのせいだなんて言えないし…)」



瑞希の死は稀モノによる自殺だったが、それを隠さんには言えず、上手く誤魔化す事にした。



「私は落ちた瞬間の彼女は見ていないのでハッキリとは分かりませんが…本を読んでいて誤って落ちたんだと思います」



「本?」



「開いた窓に腰を掛けながら本を読んでいた痕跡があったんです。実際、彼女が転落した側には本が落ちていたと警察の方から聞きました」



真実の中に少しの嘘を混ぜながら話す。



「……………」



「あの…隠さん?」



「因みに本というのは…」



「!!」



「和綴じ本だったかい?」



「…何故、そんなこと聞くんです?」



「いや、これはあくまで私の仮説だが…読んだ本が稀モノだったら…彼女は誰かの情念が宿ったアウラの輝きによって、殺されたことになると思ってね」



隠さんの瞳がじっと私を見据える。



「…確かに和綴じ本でしたが、稀モノではありませんでした。隠さんの仮説は崩れます」



「本当に?」



「えぇ、ちゃんと確認してもらいました」



「…そうか、どうやら私の考え過ぎだったようだ。済まなかったね、今のは忘れてくれ」



「……………」



「では私は書庫に戻るよ、じゃあ」



その背中は、総てを拒んでいた。



声を掛けることも──近付くことも。



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