第34章 彼女の提案-ヨワムシ-
「クロエ、飲み物は何にする?」
「バニラアイスがいいデス」
「それは飲み物じゃないんだけど…」
「溶けルと液体になるのデ大丈夫でス」
「うーん…ま、いっか」
給仕さんを呼び、バニラアイスを注文する。
「…クロエは長谷君から全部聞いてる?」
「一通りハ」
「そっか。不思議だよね、自分達の住んでる世界には無いものが、この世界では存在してる。稀モノという…恐ろしい本が」
「………………」
「その本のせいで…私の同僚が家族を亡くしたの。今はその本を書いた人物の行方を必死に追ってる…んだけど…」
「知っているのデスね」
「…違和感があったんだ。そういうの、私は多分感じやすいんだと思う。もしかしたらこの人が犯人なんじゃないかって…」
「貴女はどうするのデスカ?」
「どうしよ…。今報告をしても証拠がない。それに…何で私がそんなことを知ってるのかって聞かれたら…凄く困るんだ」
「誰も信じないかも知れませんネ」
「誰が信じると思う?実は私、別の世界から来た人間です、なんてさ…。今の状況で言えないよ…」
「………………」
重い溜息を吐き、表情を曇らせる。給仕さんがバニラアイスを運んできて、それをクロエがスプーンで掬って一口食べた。
「甘いデス、冷たいデス」
「…美味しい?」
クロエは小さく頷いた。
「良かった」
「叶斗様が言っていまシタ。総てが解決したら、貴女は私達と共に元の世界に帰ると。それは本当デスカ?」
「………………」
『この事件が片付いたら、お前は僕達と一緒に元の世界に帰ってもらう』
「(帰る…元の世界に…)」
心臓がキュッと切なげに締め付けられる。
「以前、仕事中の貴女を見掛けました。とても仲睦まじそうに男性の方と歩いていまシタね。とても幸せそうでシタ」
「!!」
「貴女のあんな顔ハ見たことがありまセン。あの方は…詩遠にとってどんな存在なのでスカ?」
「…隼人は…特別な人…」
「特別?」
「とても素敵な人だよ」
「…貴女はその方を好いているのデスカ?」
「………………」
クロエの問い掛けに
私は切なげに目を伏せ押し黙る。
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