第34章 彼女の提案-ヨワムシ-
「ちょっと!今さっき電話あったんだけどさ!やっぱり完全に取り扱い禁止になったんだってね!」
「落ち着いて下さい。
あくまでも暫定的なものです」
「そんなこと言ったって!どうしたの、何があったの!?今度は首相本人が自殺したとかじゃないよね!?」
「そのような事実は一切ありません。ただ…非常に残念なことに、稀モノを用いた連続的な犯行が行われている可能性が高いんです」
「犯行!?」
「危ないと思いますよね?なのでとにかく和綴じ本を読まない、開かない、見つけたら俺達に連絡する、と町内の人にも広めて下さい」
どの書店でも、反応は似たようなものだった。私達はただひたすら説明を繰り返し、本を回収する。
✤ ✤ ✤
仕事終わりにフラマンローズに寄った。昨日の長谷君との会話がまだ頭に残っている。給仕さんが運んできてくれた紅茶を一口飲み、カップを置いて、茫然とする。
「………………」
気分が晴れなかった。立て続けに起きた事件に心の整理がつかない。葦切さんの件は…あまりにも衝撃的で…泣き叫ぶ柾さんの姿があの頃の私と重ねて見えた。
「(…弱虫。)」
自分で自分を叱咤して、後悔した。
「(弱くて──情けない…)」
教えてあげなければ。一連の事件を引き起こした黒幕の名を。彼らを苦しめた『本』を書いた人物の名を…朱鷺宮さん達に教えないといけないのに…。
「………………」
「相席いいですカ」
「!!」
ぱっと顔を上げると、そこにいたのは…。
「っ……クロエ───。」
無表情で私を見下ろす彼女の姿だった。
「どうぞ」
驚く私だったがニコリと笑んで、向かい側の席を手で指す。クロエは何も言わず座ると、じっと私を見た。
「お久しぶりでス」
「…うん、久し振りだね」
上手く…笑えているだろうか
「やっと会えまシタ」
「探してくれたの?」
「叶斗様のご命令でス」
「やっぱ長谷君か…」
深い溜息を吐き、紅茶を凝視める。
「詩遠、どうしたノですカ?」
「え?」
「元気がなイように見えマス」
「………………」
「何か悩んでいルのですカ?」
「(彼女は本当に鋭い…)」
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