第33章 茜色の再会-ジケン-
「俺だって信じたくないよ」
彼の指にきつく力がこもり、私の肌に食い込む。隼人の顔は見えない。けれどその強張った指先に、彼の悲痛な怒りが滲んでいた。
「俺だけじゃない、朱鷺宮さんや猿子さんだって信じたくないに決まってる。滉達だって。本をそんなふうに使われることも悔しいし、また被害が出たらと思うとぞっとする」
「………………」
「でも…だからこそ、目を背けられないだろ。
目を背けてても…何も変わらないだろ」
声が出ず、私は小さく頷いた。
「俺、思うんだよ。先輩…あの本を咄嗟に投げたんじゃないかなって」
「え……」
「今までの殆どの本は、一緒に燃えてしまって証拠として何も残らなかった。でも先輩は…俺達にあの本を渡そうとしてくれたんじゃないかなって」
「…葦切さん」
「まぁ、偶然かも知れない。俺がそう思いたいだけかも知れない。でもこうして俺達の元に一つの証拠として届いた以上…責任は果たさないと。だから俺達で……────絶対に終わらせよう」
「……うん」
───そうだ。
彼も私と同じなのだ。
こうして私を支える彼の中にも、私と同じ痛みがあるはずだ。彼が私を支えるように、私も彼を支えてあげたいと思った。
ただそれを言葉にするとひどく陳腐になる気がして、私は彼の背中を抱きしめるしか────出来なかった。
✤ ✤ ✤
部屋に戻った私は鏡を見て、ぎょっとした。
「目が真っ赤…酷い顔…」
当たり前だ。あれだけ涙を流せば。
「………………」
ベッドに座って、壁を見つめる。
「…犯人は一体…」
そう口にした後、鞄の中からスマホを出し、電源を入れた。
「あれ…?」
【不在着信1件:メッセージあり。】
ドクンッ
「な、何…不在着信…?」
ドクンッ
「え…何で…?」
ドクンッ
スマホを持つ手が震え、呼吸が乱れる。
「………………」
大きく鳴る心臓の音を聞きながら、私はアイコンをタップし、耳に当て、恐る恐るメッセージを聞いた。
《メッセージが1件です。》
ピー、という音の後に、数秒の沈黙。
そして……。
《おかえり……───僕の駒鳥。》
.