第33章 茜色の再会-ジケン-
「ただあの時…私、自分でも驚くくらい混乱してしまって。今まで…あの本を書いた人にきっと悪意なんてないんだって思っていたから」
私は掌をギュッと握る。
「でも、もしそうだとしたらツグミちゃんの弟さんや隼人の妹さん、そして葦切さん達は…何も悪いことをしていないのに巻き込まれたってことだよね?」
「まぁ…そうなるよな」
「そして…過去の事件まで本当に関係があるのなら…恭彦さんも…」
『その人』は苦しめた。
恭彦さんや、隼人の妹や、葦切さんや、ツグミちゃんの弟を。そして今なお、私達をこうして傷つける。
「私は信じたくないのだと思う。…あの本が、そんな悪意で書かれたものだなんて」
「……───立花」
隼人が私の腕を引き、抱き寄せる。
「ごめ、なさ…っ」
「何で謝るんだよ」
あたたかい、と。そう感じた瞬間に堪えていた涙が滲んでしまった。
「稀モノなんて本…無ければいいのに…っ。そうすれば誰も傷つくことはないのに…。ツグミちゃんだって隼人だって…悲しむこと…ないのに…っ」
何も出来ない自分に悔しさを覚えた。この世から稀モノが無くなればいいと思ったのは本当だ。そうすれば稀モノが原因で誰かが傷つくことも、悲しむこともない。
「俺はお前のそういう優しいところ、本当に好きだ。馬鹿にしてるんじゃなくて、本気で愛しいと思うよ。でも…終わらせないと、次の犠牲が出る」
「…うん、分かってる。
でも…ごめんなさ…結局泣い……っ」
「…今ならいいよ。俺達だけだし」
「……っぅ……」
その優しい声に、私はとうとう声を上げて泣き出してしまった。
「…どうして?ツグミちゃんの弟さんも…隼人の妹さんも…葦切さんも…何も…悪いことしてないのに……っ。稀モノなんて物があるから…大勢の人達が傷つく…。こんな世界、私は知らない…っ」
悲しい。悲しくて胸が張り裂けそうだ。
「どうして人を傷つけられるの…。今でも…信じたくない…っ。この世界は平和なはずなんだよ。みんなが笑って生きる、平和な世界なの。稀モノにも怯えずに…好きな時に自由に本を読める…そんな世界なはずなの…っ。なのに…そんなことをする人がいるなんて…っ」
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