第33章 茜色の再会-ジケン-
「その彼も、全く気付かなかったと言っていた」
「たった二人では確定材料としては足りない。ただもし、本に何かの異変を感じていれば…書店に託すなんてことはしないと思うんだよ」
「まぁ普通は…そうですよね」
「私が知る限り、本絡みでこんなにも類似した事件が連続で起きたことはない。……その過去の三件を除いては。しかも『奇遇』なことに…少なくども手元にある本に限ってはアウラの色も同じだという」
「それはやはり…同一犯である可能性が高いのでは」
「(犯人……)」
その言葉がささくれのように引っ掛かって、私は思わず隼人の腕を掴んだ。
「待って、隼人。……『犯人』って決めつけるのは…まだ早いと思う」
「………え」
「だって、書いた人は何も知らないかも知れないでしょう?自分が書いたものが稀モノになっているなんて気付かずにいるかも知れないでしょう?もちろん、妹さんのこともあって、辛い気持ちは分かる。でも…」
「…立花君の気持ちは分かる。フクロウの一人としてある意味、君のその考えが一番正しい。でもね……───こればかりは『故意』の可能性がある」
「!?」
「この二冊なんだが。僕の趣味の一つに筆跡鑑定があってね。あれは面白いもので、一見すると違う筆跡でも…じっくり確かめると共通点が見つかったりするんだよね」
「…まさか!?」
「こちらが久世ヒタキ君が読んだ『野崎洋二』の本、そしてこちらが…葦切君の現場にあった『根元靖』の本」
猿子さんが本を開き鏡を当てた。
「君達の目でも見てもらいたい」
「……是非」
「でも慎重にね。鏡の中の文字だけを目で追うんだよ。絶対に本そのものを見てはいけないよ」
「大丈夫です、分かってます」
隼人の横顔は、冷静そのものだった。それが羨ましくもあり、同時に怖くもある。
「ほらこの『ぬ』の形…そっくりだろう」
「…確かに、似てますね」
「名前だけ変えるなら、ペンネームとして毎回違うものを使っている、で説明がつく。でも筆跡までは流石に変えないんじゃないかな?君達はどう思う?」
「俺は……───やはり悪質な犯罪だと思います」
隼人が微塵の躊躇いもなく言い切ったことに
言葉が出なくなる。
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