第33章 茜色の再会-ジケン-
「……隼人」
「被害者に何の関連性もなく、住所も年齢もバラバラ。ただ場所は一応どれもこの帝都内だった。その被害者の一人目が……────朱鷺宮恭彦」
「!」
「当時の研究室にはまだ調査の進んでいない本が沢山あって…その中の一冊だったのは間違いない。残りの二件の発生現場は確かシナガワと、スガモ」
「………………」
「本は一緒に燃えてしまって、詳細は謎。でも僕達は稀モノが関係していると確認し、必死に書いた人間を捜した。だがある日…一人の男が廃屋で自殺した」
「っ…………」
「自分が本を書くと誰かが死んでしまう、私が犯人だ、これで終わりにする、と…遺書を残して。それでふっつりと事件は起こらなくなって…それで終わったと思ってた」
猿子さんの話を聞いていると、改めて稀モノという本が恐ろしい本だということが分かる。
「尾崎君がここに来た時にも話したが、君の妹さんもその男が書いた本を読んだのではと思っていた。時期は少しずれるが、状況はほぼ一緒だからね」
「それに関しては、俺自身も今でも悔やんでます。怖がった母が暖炉に投げ捨ててしまって…完全に灰になってしまって。あれが残っていれば…また証拠の一つになった可能性が高いのに」
「それが普通の人間の反応だよ。そうして過去にも何冊もの稀モノが炎に消えた」
「……………」
「だが…ここにきて、また同じような事件が続けて起きてしまった。通常の犯罪なら、模倣犯という可能性もあるんだが…」
猿子さんが大きく肩を落とした時、ふと疑問が過った。
「あの、一つ…聞いてもいいですか?稀モノって書いた本人は気付かないものなんですか?」
「…そもそも、書き手まで辿り着くのもなかなか難しいから断言は出来ないが、気付いていない可能性が高い。普通の人間はアウラなんて視えないし、少なくとも外見で判断は出来ない」
「…確かにそうですね」
「こちらで会ったことのある稀モノの書き手は二人。一人は笹乞君。彼は『全く気付かなかった』と。もう一人は確か…栞が会ったんだったね」
「そう。先の大戦の生存者でね、手記のようなものをまとめて…それを読んだ息子さんが驚いたらしい。戦場の光景が……───浮かぶ、と」
想像するだけで、痛みが走るようだった。
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