第32章 失われた証拠-ヤキモチ-
「…さて、と。これでもう全部片付いたかな」
洗い物を済ませ、念のため火の元を確かめ、私が部屋に戻ろうとした───その時。
後ろから誰かに抱きしめられる。
「……───あのさぁ」
「きゃ!?」
「ちょっとあれって非道くない?朱鷺宮さんと飲むのはいいけどさぁ、その前」
「は、隼人!?ど、どうしたの!?」
「最近、やけに…隠さんと仲良くない?」
「……え?」
「無様だなー醜いなーとは思うんだけど、俺としてはやはり気になるわけですよ」
「…そ、そう?さっき話してた時?というか、いたなら声を掛けてくれれば…」
「楽しそうに仲良く話し込んでるのを見て、俺が声を掛けるわけにもいかない空気だったし…あんな笑顔…俺にも向けたことないくせに…狡いなぁとか思ったわけですよ」
「(ど、どんな笑顔…?)」
「そりゃね、告白したとは言え、返事はまだ貰ってないし?貴女が誰と仲良くしようが、俺には止める権利はないんですけど?」
「…そ、そう言われても…」
「隠さんのことどう思ってるの?」
「どうって…仲間だと思ってるよ?」
「それだけ?」
「それ以外何があると…」
「仲間、ねぇ」
「(これは…どういう状況?)」
「じゃあ、何でお菓子作ってあげてんの」
「あれは…書庫に隠さんのパンが黴かけていたから」
「……黴」
「それにパンだけじゃ栄養バランスが偏るじゃない?肉も魚も食べない。それなら食べ易いように簡単に口に入れられるものを作ったら隠さんも食べてくれるんじゃないかと思って」
「…優しいのは良いんだけどさ」
「何かいけないことだった?」
「……───いけなくはないけどさ」
「……んっ」
熱い吐息が首筋に触れ、私は思わず身動いだ。
「隼人…少し離れて…」
「やだ」
「やだって……」
「何でそんな悲しいこと言うんだよ」
「(心臓の鼓動が速い…)」
「俺はね、もうずっとお預けを食らった犬のように待ってるわけですよ」
「え……っ」
「早く俺のことを誰よりも好きになって、美味しい美味しいご褒美をくれないかなぁって、毎日毎晩思ってるわけですよ」
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