第32章 失われた証拠-ヤキモチ-
「…そんな」
「ただ…いや、この話はもう止めておこう」
亡くなった方のことを思い出させるのは辛いよね…
「お気持ちは…分かります。
私も…友人を亡くしたので」
「友人を…?」
「猿子さんには少しお話しました。学生の頃です。仲の良かった友達が窓から飛び降りて自殺を図りました。でも…彼女が自殺をする理由が分からないんです。全然…そんな素振りもなくて…」
「…そうだったのか」
「警察は自殺と判断しました。開いていた窓から誤って転落したんだろうって。でも…さっきまで楽しそうに笑っていたんです。なのに…少し離れて戻って来た時にはもう…彼女の姿はどこにもありませんでした」
悲しげに目を伏せ、掌を握り締める。
「親しい方を亡くす気持ちは痛いほど分かります。それが家族なら尚更です。私は稀モノで家族や友人を失ったわけではありませんが…人を失う悲しさや喪失感は…耐え難いものです」
「そうだな…大切な人を失う辛さは皆同じだ。どんなに会いたいと思っても、死んだ人間は二度と生き返ったりしない」
「!」
「それを分かってはいるんだ」
「朱鷺宮さんは…会いたいですか?」
「………………」
「願うなら、もう一度、恭彦さんに…」
「会いたいよ」
「!」
「でも…それは思うだけで願ってはいけない。人を生き返らせることなんて…不可能だからな」
「…そう、ですね」
悲しげに笑んだ朱鷺宮さんに心が痛んだ。
「…ああ、今夜は何だか酔いが回るのが早いな。そろそろ引き上げるとするか」
「片付けておきますからお休みになって下さい」
朱鷺宮さんが、何かから逃げようとしているのは分かった。いつも凛とした彼女をそこまで重く縛るものが知りたくもあり、怖くもあった。
「では済まないが、お言葉に甘えて。また暇な時にでも付き合ってくれ、その時は私が皿洗いするよ」
「はい」
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