第32章 失われた証拠-ヤキモチ-
「…じゃ、じゃあ何か作る?好き嫌いはないって言ってたけれど、食べたいものを教えてくれたら…」
「違うよ馬鹿」
「……違うの?」
「いやそれも悪くないんだけどさ、そうじゃなくてさ。今、俺の腕の中にあるものを食べたら美味しいだろうなーって」
「…腕の中?私?」
「そう『私』」
「……───え、私!?」
「…食べていい?」
「や、あの……!」
ぶわっと熱が首にまで伝わり、顔を赤く染めた私はその羞恥から逃れようとする。
「逃がさない」
「……あっ!?」
咄嗟に逃げを打った躯を、囁きと共にきつく抱き竦められる。
「…俺も獣にはなりたくないからさ、あんたが俺のこと好きって言ってくれるまでは待つけどさ。……でも、それまで我慢出来るように少しだけ……───いい?」
そう尋ねたくせに、私の答えを待たずに彼の歯が私の耳朶を緩く噛んだ。
「……あっ」
彼の唇はそのまま私の首筋を這い降り、ブラウスと肌の隙間で止まった。
「も、もう終わり…っ」
「…もう少し」
「うっ」
瞼の上にキスを落とされ、顔を赤くする。
「は、隼人!!」
「可愛かったから、つい…」
「………………」
「照れてる…ほんと可愛い」
甘い声に酔った様に頭が麻痺する。
「自分で自分の理性を表彰したいよ」
「!!」
「俺は、本当にあんたのことが好きだし、そして…大切だよ」
ふっと彼の声音に何かが混ざり込んだ。
「だからあんたを傷つけようとするものは許さない。それが誰で…あっても」
「……隼人?」
「…おやすみ」
彼はほんの一瞬──私の頬に口付けて走り去って行った。
「………………」
首筋も、背中も、頬も、総てが熱を持っていた。彼が触れたところ、総て。
「…どうしよう」
たくさんの『好き』が
こんなにも溢れてしまう───……
キラキラしたものが瓶に溢れていて、それに蓋をして閉じ込めようとしても、彼に対する想いが止まらなくて、どんどん瓶からキラキラしたものが溢れ出てしまう。
「きっとこの想いは───……」
まだドキドキしている心臓の音を聞きながら、私はそっと目を閉じた…。
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