第32章 失われた証拠-ヤキモチ-
目を覚ますと、見慣れた天井だった。
「夢…だったんだ、良かった…」
ベッドから起き上がり、制服に着替えると、私はいつものように作戦室に向かう。
「おはようございます」
「やぁ、おはよう」
「猿子さん!今日はこちらに何かご用ですか?」
「…ああ、いやその…」
そこで私はやっと、作戦室に立ち込めるただならぬ気配に気付いた。
猿子さんだけでなく、朱鷺宮さん、ツグミちゃん、隼人、滉、翡翠、そして隠さん──みんなが重苦しい表情だ。
「…何かあったんですか?」
恐る恐る問うと、隠さんが私に向かって深く頭を下げた。
「…済まない。実は君が先日見つけたあの本…私の独断で処分した」
「え!?」
「今、みんなにも話していたところだったんた。あれは……───やはり恐ろしい本だ。君が持ち帰った日から、私はずっとあれを調べ続けていた。でもね…何が起こるか、さっぱり読み取れなかったんだよ」
「(読み取れなかった?)」
「殆どの本は鏡に写して読めば、その文章から何が起きるかある程度予想は出来る。誰かを殺したい物語、逆に死んでしまいたい物語、恨みや悲しみ、怒り…そういったものが綴られているからね」
「……………」
「ただあの本を一通り読んでみたんだが、取り留めのない雑文で、危険な表現なども見当たらなかった。だから私は昨夜、好奇心もあって…つい鏡に映さずに読んでしまったんだ」
「隠さん!?」
「少しなら平気だと思ったんだよ」
「(だからと言って…)」
「君がせっかく見つけ出したものを…こんな形で無に帰してしまったことが申し訳ない。総て私が悪いんだ…済まなかった」
「命の方が大切ですよ」
猿子さんが気遣って隠さんに声を掛ける。
「いや、しかし…ああ、私は何と言うことを…。本当に……────済まなかった」
隠さんが私に向かってまた深く頭を下げる。
「…猿子さんの言う通りですよ。
隠さんが無事で良かったです」
「………………」
「人は簡単にその命の灯火を消してしまいます。私はもう…誰かを失うのは嫌なんです。だから…隠さんの命の方がずっと大切ですよ」
「……有難う」
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