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たとえば君が鳥ならば【ニルアド】

第32章 失われた証拠-ヤキモチ-



「何がだ」



「瑞希が死んだ理由だよ」



長谷君の瞳に鋭さが宿る。



「お前は瑞希が自分の意志で飛び降りたんじゃないと思っているのか?」



「それも…分からない」



「はぁ…仮定の話をしようか」



「?」



「瑞希の死が本人の意志じゃない『他殺』だったとする」



「他殺!?」



「お前は紅茶を淹れるために1階のキッチンにいた。その間、瑞希はこの部屋で一人だった」



壁に掛けられた高そうな絵画を見つめながら、長谷君は"もう一つの可能性"の話をする。



「そしてもし誰かが屋敷に侵入した場合、各所に取り付けられた防犯カメラが作動し、怪しい人物が映った時点で、すぐに僕の携帯に届く仕組みになっていることは知っているな?」



「うん…」



「だがあの日は…お前と瑞希以外、僕の家に来た者は一人もいなかった」



「……………」



「言っている意味が分かるか?逆に言えば、この屋敷にはお前達以外は誰もいないんだ」



「あ……」



私はそこで、はっとした。



「本当に瑞希が『他殺』だとしたら、犯人はお前しかあり得ないということだ」



「!?」



「だから『自殺』なんだ。まぁお前がキッチンにいた証拠は既に検証済みだ。間違っても犯人はお前ではないから安心しろ」



「……………」



私は何も言えず、黙り込んでしまう。



「(じゃあ…本当に瑞希は自分の意志で…)」



残酷過ぎて涙が目尻に浮かぶ。



「詩遠、下に降りよう。お前がいつまでもそうしているとせっかく淹れた紅茶が冷める」



溢れそうになる涙を乱暴に拭う。



彼女と過ごした日々は、とても楽しくて、幸せに満ち溢れていた。



どうしても…願わずにはいられなかった。



「──────」



消えそうな声で紡がれた願い。



拭ったはずの涙が、一筋零れた…。



「詩遠」



だから、気付けなかった。



彼の茜色の瞳が…何も映していないことに。



「お前の望みは、僕が叶えてあげるよ」



気付かなかったんだ



彼の優しさに甘えすぎて



その笑顔の裏に隠された



─────歪んだ計画を……。



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