第32章 失われた証拠-ヤキモチ-
夢を視た
とても悲しくて切ない夢
「ごめんなさい…ごめんなさい…っ」
すすり泣く私の前には棺桶と遺影がある。
「本当にごめんなさい…っ」
そして私は喪服に身を纏い、畳に頭を擦り付け、涙を流して何度も謝っていた。
これは…何の夢だろう───?
「瑞希…瑞希…!」
あぁ…そうか
これは…"彼女"が死んだ夢だ
「……詩遠」
茜色の瞳をした彼は
とても悲しそうな声で私を呼んだ
「長谷君…ごめ、ん…」
「どうしてお前が謝る?」
「だって…私が…私のせいで…瑞希は…!」
「彼女は自殺だった。窓から飛び降りたのも自分の意志だった。だから…お前のせいではないよ」
あぁ 嫌な夢
私の嫌いな夢だ
そして、見ていた夢の背景は一瞬で変わり、次に視たのは…"彼女"の葬儀を終えて数日が経った頃の、長谷君の屋敷の書庫だった。
「(ここで…瑞希は死んだ。)」
あの日と同じように開けられた窓。白いカーテンが外から入り込む風で心地よく揺れる。
「どうして…飛び降りたの…」
彼女の周りには何も落ちていなかった。何かに躓いて転げ落ちた形跡も、足を滑らせて転倒した痕跡も、何も…見つからなかった。
「(じゃあ何故、彼女は落ちたの…?)」
自殺する理由は?
何か悩みを抱えていた?
だから警察も自殺だと判断したの?
「ねぇ瑞希…教えてよ。貴女は本当に自らの意志で飛び降りたの?それとも…」
「いつまでそうしているつもりだ」
「長谷君…」
「この部屋には入るなと言ったはずだ」
「…ごめんなさい」
彼女の死後、長谷君はどこか変わった気がする。ハッキリとは分からない。でも…彼が纏う空気が少しだけ、冷たく思えるのは…私の気のせいだろうか。
「紅茶を淹れた。飲むだろう?」
「うん…」
「そんな思いつめた顔をするな」
腕を組み、長谷君は短い溜息を吐く。
「…どうして瑞希は自殺なんてしたのかな」
「それを答えて、お前は満足するのか?」
「…分からない」
「彼女は自殺だった。警察もそう言っていただろう。なら瑞希は自殺だったんだ」
「長谷君は疑問に思わないの?」
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