第31章 アウラの揺り籠-ムジョウ-
「そんな時に、隠君が司書としてここに来て…本から炎が視えるって言い出した時は、流石の僕も仰天したよ」
「………!」
「知識として頭にはあったんだ。そういう、物とかに残った感情みたいなものを視る能力は、海外でも研究されているから」
「そういうものなんですか?」
「うん。まぁ非常に珍しいものなのは間違いないよ。星川君のあの能力もその一種。ここには三人も揃っているから、余り稀少に思えないかも知れないけどね」
「確かにそうですね」
「まぁとにかく、そんな感じで始まったフクロウも、今ではそこそこ大所帯に。ところで結婚式の予定は?」
「え!?」
「どれが似合うかなって今、虫干ししてるんだ。決まったら是非早めの連絡を」
「な、なんのことです!?」
「何って…君と尾崎君はそういう仲なんだろう?」
「ち、違います!私と隼人はまだそんな仲じゃ…」
「違うのかい?でも、まだってことは、いつかそういう仲になるってことだろう?」
「え!?あ…!」
「君は焦ると口が滑りやすいんだね」
「うぅぅ……」
私は火照った頬を残したまま、お茶をゆっくりと飲んだ。それからは雑談めいたものになり、猿子さんの得意なお祭りや鳥のことを色々と聞いた。
まるで面白い授業を受けているような感覚で、また時間があったらお茶を飲みにこようと私は心に決めた。
「おや、もうこんな時間か。そろそろ君を帰さないと栞が心配するな」
「そこまで過保護じゃないですよ」
「はは、過保護なのは僕だったか」
「では失礼しますね」
私は研究室の扉に向かって歩き出す。
「あれ、外からなの?雨降り出してるから地下を通っていけば?栞はまだいるだろうし」
「雨!?いつの間に!」
耳を澄ませば、確かに屋根や窓を打つ雨音が微かに聞こえる。
「!」
その時、ふと机の上に置かれた紙が視界に入る。
「猿子さん、このビラ…」
「ああ、うちの研究員がね、街で女性から貰ったんだよ。何でもいなくなった駒鳥を探してるらしくてね」
「………………」
「それがどうかしたかい?」
「いえ、何でもないです。では、失礼しますね」
「気をつけるんだよ」
「はい」
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