第31章 アウラの揺り籠-ムジョウ-
それから暫くして、猿子さんがカップを二つ携えて戻ってきた。
「はい、甘いお茶だよ」
「あ、有難うございます!」
恐る恐るカップを口に近付けると、危険な香りはしなかった。何かの葉か、実を煎じたような香ばしさだ。
「それで?ただお茶を飲みに来たってことはないよね?何か聞きたいことでも?」
「本当にお茶を飲みに来たんですよ。ただ猿子さんが話しておきたい、というものがあれば是非。稀モノのことでも、このフクロウのことでも、あとはカラスのことでも…何でも」
「そうだなぁ…じゃあ、せっかくだからこのフクロウの初めの頃のことでも聞く?」
「是非!」
「最初はね、探索部も研究部も分かれていなくてね、局長も当時のこの図書館長だったんだ。あ、あとね『稀モノ』って名付け親は僕だから!」
「そうだったのですか!」
「聞いてるかも知れないけど、稀モノの収集と保存に力を入れるようになったのって、意外につい最近なんだよ。昔は理屈も分からなかったし、それはまぁ怖がって捨てたり燃やしたりするよね」
「…そうかも知れません」
「でもそういうものを残すべきみたいな動きがあって、とにかくそれらしいものをまず集めようってことになってね。僕と恭彦がまず……あ」
「……………」
お面の奥で、猿子さんが息を呑んだのが分かった。
「(恭彦さんって…確か…)」
「…そうだよね。彼の話になるに決まってる。
僕としたことがうっかりしてた」
「……………」
「まぁ二人のあれこれを僕が語るのは野暮だし、フクロウに関してだけ事実を述べていこう」
気を取り直して、猿子さんは言葉を続ける。
「とにかく…そんなわけで最初は僕と恭彦二人だけだったんだ。館長はあくまでも書類上の責任者って感じで」
「そうなんですか」
「それで資料にまとめるのに呼び方を統一した方がいいだろうなって。『奇妙な本』とか『不気味な本』じゃあんまりだしね」
「確かに…」
「でも、最初はとにかく片っ端から集める感じで玉石混淆でね。開いてみたいことにはどんな影響か分からないものも多くて…なかなか整理が進まなかったんだ」
私は猿子さんの話をお茶を飲みながら聞いた。
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