第31章 アウラの揺り籠-ムジョウ-
「ただいま戻りました」
作戦室には、朱鷺宮さんと翡翠がいた。
「あれ、そっちから出て来るなんて珍しいな」
「雨が降り出したと聞いたので」
「ん?おや本当だ、気付かなかった。隼人達、降られる前に帰ってこられて良かったな」
「………っ」
その名前だけで、心臓が大きく跳ねた。
「(気にし過ぎだよ…)」
「僕がバスを降りた時に、ぽつぽつ落ちてきてはいたんですよね。明日の朝までには止むといいんですが」
「そうだといいね。……あれ?翡翠、その手に持ってるもの…」
「これですか?街で女性に貰ったんです」
「…………」
彼の手には猿子さんと同じあのビラが握られている。
「駒鳥がいなくなったみたいなんですが、見つかったらしいですよ」
「!そうなの?」
「ええ。このビラを渡された後に、男性の方が来て、そう言ったのを聞きました」
「そっか。見つかったのなら良かった」
私は安堵の息を洩す。
「じゃあ、私はこれで」
「お疲れ様でした」
二人に頭を下げ、部屋に戻った。
✤ ✤ ✤
「猿子さんのお茶、美味しかったな」
制服を脱いだ私はベッドに腰掛ける。
そしてバッグからスマホを取り出して、電源を入れた。待ち受け画面は、猫の写真だ。道端で寝ていた猫の愛くるしい姿が写っている。
「あれ…メール?」
それは定期的に配信されるニュースだった。最後の日付は、この世界に来る当日で、止まっている。
私はそれを開いて読んだ。
【XX年前に女子生徒を建設中のビルに連れ込み、乱暴したとして逮捕された男の死刑が今日、執行された。】
【男は夜道に女子生徒が通る道を待ち伏せし、背後から声を掛け、逃げようとしたところで無理やりビルの中に引きずり込み、犯行に及んだ。】
【男の供述によると犯行を認めていて、違う女子生徒を襲おうとしたが逃げられ犯行に失敗。その時に偶然見かけた女子生徒に一目惚れをして、付き纏うようになり、自分のモノにしたかった、と供述した。】
「………………」
怖いくらい何の感情も宿さぬ瞳で、笑みを浮かべて言った。
「ああ…良かった───。」
next…