第31章 アウラの揺り籠-ムジョウ-
そっと躰を屈ませる隼人に焦ってしまう。
「え!あの…!」
「ボタン留めて」
ん、と言って、彼は首を差し出す。
「で、でも…」
「はーやーくー」
「…じゃあ、失礼します」
手を伸ばし、外れたボタンを掛ける。妙に距離感があって、思わず顔を俯かせた。
「はい…出来ました」
ぱっと、手を離して距離を取る。
「顔、赤いけど大丈夫?」
「っ!」
意地の悪い笑みを浮かべる隼人に、私は頬を膨らませる。
「…そういう聞き方は狡い」
「ごめんごめん。だってボタン留めるだけなのに凄く顔を赤くしてるからさ、もしかして俺にドキドキしてくれたのかなって」
「う……っ」
「あんまり可愛い反応しないでくれる?
人目を気にせずに抱きしめたくなるから」
「!!」
「それとも…抱きしめて欲しい?」
「え!」
どう返していいか分からず
顔を赤くしたまま視線を彷徨わせる。
「立花はほんと恥ずかしがり屋だな」
「だ、だって…!」
「ボタン、留めてくれてありがとな」
そう言って私の頭をぽんぽん、と優しく叩くと、彼は中へと戻って行った。
✤ ✤ ✤
「本日は皆さんに…お伝えしたいことがあります」
作戦室に向かうと、どう見ても晴れやかとは言い難い顔で、燕野さんが私達をぐるりと見回した。
「約一週間前…自分の同期の者が『自殺』いたしました」
「!?」
「ただ、自分は…違うと思うんです!あいつは…あいつは殺されたんです!」
「おい、どういうことだ?まさか…」
「…あのギンザのナハティガルに、潜入していたんです」
「潜入って!?」
「黙っていて申し訳ありません。ただ稀モノ絡みではなく、あそこに出入りしている議員に贈収賄の疑いがあり…そちらで動いた次第です」
「…自殺って、どんな状況で?」
「服毒です。……自宅の部屋で。遺書もあって…自分の仕事に限界を感じたと、書かれていて…でも、そんなこと絶対に信じられません!」
「……………」
「あいつは……きっと……────」
燕野さんはそこで声を詰まらせた。
「…間違いないな。消されたよ、それは」
「滉!」
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