第31章 アウラの揺り籠-ムジョウ-
「(……眠い。)」
アパート前を掃きながら、私は欠伸を噛み殺した。結局あの後も色々と考えてしまい、最後に見た時計の針は午前3時だった。
「おい!昨日、カラスの話を聞いたんだって!?」
「きゃ!?」
いきなり中から隼人が走り出てきた。
「昨日あれから先輩に電話したんだよ」
「そんな私が聞いちゃいけないことだった?」
「…あ。いや…ごめん、そうじゃなくて…。カラスに関してはさ、もう少し色々情報が整理出来てから話そうって朱鷺宮さんも言ってて。色々…物騒な話だからさ」
「有難う。でも私なら大丈夫だから。むしろ、話を聞いてもっと頑張ろうって気持ちになったくらい。この程度で怯えるわけにはいかない」
「そ、そう」
「素敵な先輩だね」
「…そう言われると嬉しいよ。カラスに関しては杞憂だったな。あんたがそこまで弱くないって分かってたつもりだったのに」
「やっぱり勇敢に見えたりする?」
「は?」
「やっぱりあの子だけだと思う?」
「何が」
「屋敷の女中の子が、私の姿を見て勇敢な王子みたいだって…言っていたの」
「ああ、勇敢、すっごく勇敢、格好いい、王子みたい」
「………………」
「怒った?」
「…怒ってません」
「はは、冗談だって。似合ってるしちゃんと可愛いよ。勇敢で格好良くて、お姫様を救う王子みたいでさ」
「…喜んでいいのか分からない。そういえば…制服姿で屋敷のみんなに会ったことがないから、少しでも頑張ってるってところを見せたいな」
「時間が出来たら、制服着て屋敷に行けば」
「…いいと思う?」
「きっとみんな喜ぶよ。屋敷の人達はあんたが楽しく幸せに頑張ってる姿が一番嬉しいはずだから」
「…有難う」
「さて、掃除の邪魔してごめんな、後でまた」
「あ、隼人、ボタンが外れて…」
立ち去ろうとする彼のシャツの上のボタンが外れてることに気付き、私は手を伸ばす。が…そこではっとして、手を止めた。
「あ、ご、ごめんね!
気安く触れちゃいけないんだった!」
「……………」
「シャツのボタンが外れてるから留め…」
「どこ?」
「え?」
「留めて」
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