第30章 口は災いの元-コマドリ-
「(……あ。)」
「お」
お湯を使って出てくると、ホールでまた隼人が独り球を突いていた。
『っていうか男はみんな好きだろ!!胸が!!』
「(…本人が言ったわけでもないのに気にするなんて…)」
私は何故か微妙に羞恥を抱えたまま、彼に歩み寄った。
「今晩は」
「よう、風呂上がりか」
「いいお湯でした。……ところであのね、今日、また葦切さんに会ったの」
「『また』?」
「あ!?」
「え」
そこで隼人はキューを放り出し、足早に私に歩み寄った。
「失言でした、忘れて下さい」
「だーめ、忘れない」
その声がやけに優しくて、私は頬を染める。
「『また』ってことは一度目もあったんだよな?」
「そ、そうなの。実はツグミちゃんの友達も帝都新報にいたらしくて、最初はフラマンローズで偶然会ったの。話そうと思ってたんだけど、つい忘れていて…」
「ふーん。……じゃあ、二度目は?」
「今日、知り合いと歩いていたら声を掛けられたの」
「…知り合い?」
「うん」
「それって…男、だったりしないよな?」
「ち、違います!彼女は女の子です!」
「本当に?」
「ほ、本当に!」
「なら良かった」
笑みを浮かべる隼人に、私はまた頬を染めた。
「それで?何でさっき顔を赤らめたんだよ?まさか…先輩に口説かれたりしてないよな?」
「え!?してないしてない、全く!」
「ならどうしてそんなに焦ってるんだよ。口説かれたんじゃないなら、何か変なこと言われたのか?」
「!?い、言われてない!何も!」
「言われたんだな?一体どんなことを?」
『っていうか男はみんな好きだろ!!胸が!!』
あのことは絶対に話せない…!
「は、隼人が…テニス上手かった話」
「嫌いじゃないのは確かだけど、お前がそんなに狼狽えることかよ?」
「す、凄いなって」
「他にも何か言われたな?」
「…言われてませんよ」
ピアスに触れ、視線を逸らす。
「何を言われた?」
「ほ、他は…えっと…新劇の女優さんを振った話…とか?」
「何だ、そんなことか」
「そんなこと!?」
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