第30章 口は災いの元-コマドリ-
「でも見つけてもきっと簡単には戻ってきてはくれないだろう」
「何故ですか?」
「あの子は僕のことを嫌っていてね」
「それは…可哀想ですね」
「まぁ…そこが問題ではないんだが。彼女がどうしても見つけたいと言うものだから、こうしてビラ配りをしているんだよ」
「そうなんですか。私も見かけたらご連絡致しますね。早くその子の元に帰ってくるといいですね」
「…ああ、有難う」
「それじゃあ」
笑んで頭を下げ、その場を立ち去った。
✤ ✤ ✤
「あ、お帰りなさい立花さん、速達が届いてますよ」
「…私に、ですか?」
アパートに戻った私を見つけた管理人さんが、大きく手を振った。けれど、微かな不安が過ぎる。私がここで暮らし始めた者を知る人間は立花家の関係者以外は殆どいない。
「(彼女は何も言ってなかったし…)」
速達など送ってくる相手に全く心当たりはなかった。
「(おじい様なら電話してくるだろうし…)」
「はい、どうぞ」
「有り難うございます」
部屋に戻った私は不安に思いつつ、差出人の名前を見た。
「柾さん……?」
それは女学校時代の先輩であり、ツグミちゃんの幼馴染みでもある彼女からだった。
「驚いた…。柾さん、一体何の用事で…」
『こんにちは、元気?送りたいものがあったから久し振りに手紙を書いてみたの』
『この体操を毎日やってね!それと牛乳を沢山飲むといいんだって!』
『私もやるからお互い頑張ろうね!』
「……………」
───便箋にびっしりと書き込まれていたのは『胸が大きくなる体操』だった。
「……胸」
『ただ亜米利加から戻ってきた時に『向こうの女性は胸が大きかった』みたいなこと言ってたから!』
『っていうか男はみんな好きだろ!!胸が!!』
私は手紙を机の上に置き、自分の躰を眺めた。
これ以上成長すると
今の服が着れなくなる…
「…でも、どうして柾さんもやるの…?」
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