第30章 口は災いの元-コマドリ-
「そりゃ振るよ、俺はあんたが好きなんだし」
「!?」
「それが何か?」
「う…いえ…な、何でもないです…」
「もしかして、そんなに狼狽えてんのってそのせいなの?……───嫉妬してくれてんの?」
「え!?」
「違うのか?この前より、少しは俺のこと好きになってくれたかなって嬉しくなったのに」
藪から蛇とはまさにこのことだ。嫉妬していたつもりなんてなかったのに、彼の言葉がどんどん私を焦らせる。
「駄目?あれから…ほんの少しでも俺のこと好きになってない?」
「そ、れは……」
隼人はいつもと変わらぬ表情で私をじっと見ている。無神経なのか大胆なのか分からない。
告白された日から、彼を見る目が変わったのは確かだった。
「ね…答えて、立花」
「………………」
「俺のこと、ほんの少しでも好きになってくれた?」
そして着実に───私の中で彼の存在が大きくなり始めているもの。
「…なったような…気がします」
「!!本当に!?」
「お、恐らく」
「その微妙な言い方は何なんだ」
「……───恐らく、人を好きになるのが初めてだからです」
「…成る程」
「以上です、おやすみなさい」
なるべく早く彼の視線から逃れようと、私は頭を深く下げ、そのまま歩き出す。
「なら、もっと好きになってもらえるように頑張るよ!」
「………!」
「ああそれと」
「(ま、まだ何か…?)」
「そのパジャマ姿、すごく可愛い」
「っ………!」
「おやすみ」
私はどう返していいか分からず、またお辞儀をして逃げるように部屋に戻った。
✤ ✤ ✤
その夜、私はなかなか寝つけなかった。
『そりゃ振るよ、俺はあんたが好きなんだし』
「(カラスのことも聞くつもりだったのに…とてもそんな雰囲気ではなかったし。)」
明日こそ…ちゃんと聞かなきゃ
「…音楽でも聴きながら寝よう」
バッグからスマホとイヤホンを取り出す。
イヤホンを繋げて耳にはめると、音楽が流れ始める。それを聴きながら、私は目を閉じた。
next…