第30章 口は災いの元-コマドリ-
「それにしてもあの葦切様は正義感に満ち溢れた方ですわね」
「うん、本当に。私も負けないようにしないと」
「流石はお嬢様!勇者ですわ!」
「だから勇者じゃないってば」
「なら勇敢な王子ですわ!」
「もう……」
「ですが、心配ですわね」
「え?」
「あのひたむきさが…仇にならなければ良いのですが」
「それはどういう意味?」
「そのカラスという方々は…人の命を簡単に奪うような連中ですよ。このあいだ読んだ本に書いてありました。そういう方々は、口封じがお得意だと」
「!?」
「あ!そんな不安なお顔をしないで下さいませ!」
「…本の読み過ぎだよ」
「申し訳ありません…不謹慎でした」
しゅん、と肩を落として落ち込む彼女に私は優しく言う。
「ごめんね、私の言い方がキツかったね」
「いいえ!お嬢様は悪くなどありません!私がもう少し空気を読むべきでしたわ…」
「この世界は平和に思えて稀モノに怯えてるんだね。稀モノが無ければ、みんなは幸せに暮らせるのかな…」
「お嬢様…」
「稀モノがない世界なんて…なくなってしまえばいいのにね」
笑んで見せるも、心は晴れなかった。
「お嬢様もくれぐれもお気をつけ下さい」
「もちろん」
「それではお嬢様。私はこの辺で失礼致しますわ。ゆっくりと羽根を伸ばして下さいませ」
「そうするよ。気をつけて」
「はい!」
彼女は踵を返し、ゆっくりと歩き去って行った。
「(さて…私も行こう。)」
ドンッ
「あ、すみません!」
肩がぶつかり、慌てて頭を下げる。
「───怪我はないかい?」
とても優しい声だった。
「はい」
顔を上げると男性で、深めに被った帽子で顔は見えなかったが、声からして若そうだ。
「気をつけるんだよ」
「…すみませんでした」
カサリ、とポケットから折り畳まれたビラが落ち、男性がそれを拾う。
「ああ、君もこのチラシを貰ったんだね」
「女性の飼っていた駒鳥が迷子みたいで…」
「そうなんだよ。彼女は私の連れでね、ずっと前にいなくなってしまった駒鳥を探しているんだ」
「そうだったのですか」
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