第30章 口は災いの元-コマドリ-
「いえ?そんなことはないですよ?両親と弟は田舎でピンピンしてます。まぁ殺しても死にませんね、アレは」
「まぁ、うちの旦那様と同じですわね」
口元に手を当て、彼女はうふふ、と笑う。
「(うちの使用人…コワイ。)」
「ただまぁ、知り合いにいるっちゃいますね。
稀モノが原因で…家族を亡くしたのが」
「(あ……)」
私はすぐに悟った。
それが──隼人のことだと。
「とにかく……───俺は総てが許せない。命や人権を軽んじてることも、本をそんな卑怯な道具のように扱うことも」
「…確かにそうですわね」
「人の道に外れた行為です。
絶対に許されるべきではない」
「(葦切さんは罪を犯した人間を許せない。なら…私の“罪”を、この人はどう思うだろうか。)」
彼女を…死に追いやった自分を───。
「本は人を傷つけ、苦しめるためにあるものじゃない。二人だってそう思いますよね?」
「思いますわ」
彼女は深く頷いた。
「例え稀モノ絡みの事件じゃなくても、俺は…人の命を奪っておいて、それでも罪から逃れようとする奴が許せないんです」
「………………」
「どんな罪であろうと、そいつはその罪を償うべきです、絶対に。」
「そうですわね。旦那様も簡単に人の命を奪う方がお嫌いです。だからこそ、旦那様は警視総監というお立場に就いています。『悪』をこの世から無くすために」
その強い想いが、痛いくらい私に突き刺さる。
「だから俺は絶対に証拠を掴んで、白日の下に晒します」
「応援致しますわ。私共も人の命を奪う輩を許せません。ね、お嬢様…!」
「…そうですね。私も応援します、葦切さん。この世から総ての『悪意』がなくなるように、私は全力で頑張らせて頂きます」
「はは!流石は隼人が見込んだ女性ですね!お似合いですよ!」
「え!あ、あの葦切さん!その話は今日は…!」
「あら、お邪魔でしょうか」
「そんなことはないですよ!ただまぁ俺もよくデリカシーがないって柾に言われるんで、ここいらへんでやめときます」
「…そうして下さい」
「あ!いっけね、もうこんな時間だ!ちょっと長話し過ぎましたね!俺は社に戻りますんで、それじゃ!」
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