第29章 導火線-コウイ-
「剣道?君は剣道をやるのかい?」
「え、あの……!」
「彼女、めちゃくちゃ強いんですよ。竹刀で男を気絶させたこともあるそうなんです」
「な、何で言っちゃうのそれを…!」
「君のような小柄な女性が剣道を…。
何がキッカケで習い始めたんだい?」
「え……」
その質問に思わず黙り込んでしまう。
「…難しい質問だったかな?」
「いえ…剣道を習い始めたのは…学生の時に嫌な経験をしたからです。それで何も出来ない自分が悔しくて…自分を守る術を身に付けたくて始めたのがキッカケです」
「そうだったんだね…」
「じゃあ隼人…付き合ってもらってもいい?」
「よし、行こう」
「さて、では私は風呂に入ってくるとするか。練習頑張るんだよ」
「はい」
✤ ✤ ✤
洗面器を一度部屋に置きに戻り、急いで外に出ると、彼は二本の細い條の棒を手にしていた。
「それでやるの?」
「うん。物置から支柱をちょっとくすねてきた、ほら」
彼は機嫌良さそうに棒を私の手に握らせる。
「…では、よろしくお願いします」
───そうして、練習を始めてはみたものの。
「隙有り!」
「きゃ……!」
「はい、これで十五連敗めー」
「…も、もう一回やろう!」
「負けず嫌い」
隼人はくすりと笑う。
そう言って構え直してみるも、あと百回やっても勝てないのは火を見るよりも明らかだった。
「(…ずっと練習してなかったから力が落ちてる?にしても…負け過ぎてる気が…。一応、強いはずなんだけど…)」
なんだか悔しくて、頬を膨らませる。
「勝てないの、悔しい…」
「ははは、本当に負けず嫌いだな」
「だって勝ちたいんだもの」
「その意気込みは買うよ。でも狙う場所を的確に突いてきてるのは凄いな。さすが全国大会の優勝者」
「むぅ…笑って言うことじゃない」
「拗ねない拗ねない。一年くらいやってれば俺から一本取れるようになるかもよ?」
「一年後ね、期待してて」
「はは!いい返事!」
「絶対に勝ってみせるからね」
「楽しみにしてるよ」
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