第29章 導火線-コウイ-
「…ところで、こういうのって何処で覚えたの?」
「ん?俺のは色々混ざってるよ。昔習ってた剣道とか、今、巡査教習所で教わってる逮捕術とか」
「巡査教習所?」
「俺とか滉は特別に授業に時々混ざってるんだ。あ、先に言っておくけど女は入れないから」
「…ずるい」
「そうだな、そろそろ女の警察官とかが認められてもいいかもな。フクロウに朱鷺宮さんや久世やあんたがいるように」
「え…?女性の警察官はいないの?」
私は驚いて隼人を見た。
「男性に混じって組み手とかもしないの?」
「………………」
「白バイとか…も…、……………。」
私はそこで口を噤み、黙った。何の疑いもなく喋った言葉に疑問を持った隼人が、じっと私の顔を凝視めている。
「(やってしまった……)」
心音が速く鳴り、冷や汗が止まらない。俯かせた顔は、緊張で強張っていた。竹刀を握る手が汗でベタついている。
「…俺に何か聞かれるんじゃないかって思ってる?」
「え……!」
「いや、すげー泣きそうな顔してるからさ」
「………………」
私はギュッと掌を握り締める。
そんな私を見て、隼人は困った様な顔で笑んだ。
「質問されたら困るんだろ?」
私は申し訳なさそうに頷く。
「分かった。じゃあ聞かなかったことにする」
「隼人……」
「だから笑ってくれ」
「…有難う」
気になってるはずだ。私が今言った言葉の意味を知りたいと思っているはずだ。なのに…彼は気を遣って、聞かないでくれた。本当は気になって仕方ないはずなのに…。
「………………」
気付くと、私は彼のその笑顔に見とれていた。
「…ねぇ隼人、もし良かったら、また練習に付き合ってくれる?」
「……………」
彼が微かに頬を染めた。
「もちろん!」
彼の笑顔は、私を安堵させ、強くさせる。
私は自覚しないわけにはいかなかった。
彼への───『仲間』以上の好意を。
夜の明かりに照らされて
茜色のピアスがキラリと光った…。
next…