第29章 導火線-コウイ-
《それなら安心だ。お前は少食だからな。使用人達も心配しておった。怪我もしていないな?》
「はい、大丈夫です」
《もし何処か痛めたりしたら我慢せずに誰かに手当てしてもらうんだぞ。》
「分かってます。おじい様こそ体調の変化には十分に気を付けて下さいね」
《儂の身体は頑丈だからな、滅多な事では体調は崩れんよ。…おっと、こんな事を話しているうちに儂もお前ももう仕事の時間だな。》
「これから巡回なのです」
《そうか。じゃあ頑張って来なさい。儂も遠くからお前のことを見守っているよ。》
「はい、行ってきます」
電話を切り、ホールを出た。
✤ ✤ ✤
「ごめん隼人、お待たせ」
「待ってはないけど…大丈夫か?実家からだったんだろ?もしかして何かあった?」
「それは大丈夫。おじい様が私の声を聞きたくて電話を掛けたみたいだったの」
「確か立花の祖父って…宗一郎さんだよな?」
「!どうして名前を…」
「あー…実はさ、朱鷺宮さんからお前に会う前に聞いてたんだよ。立花が警視総監の立花宗一郎の孫だって」
「そうだったんだ…」
別に隠してるわけじゃないけど、隼人が朱鷺宮さんから聞いていたのには驚いた。更に、一緒に巡回に出るわけでもないのに、電話を心配してここで待っていてくれたのだ。
「でも血の繋がりはないんだよ」
「え、それは知らなかった…」
「でもおじい様は私のことを本当の孫のように思ってくれてる。だから私も立花家の人間でいられるの」
「そうだったんだな。今の立花の顔見てても分かるよ。宗一郎さんのことが本当に好きなんだって」
「有難う」
おじい様との関係を知っても、態度を変えずに接してくれる隼人に笑ってお礼を言う。
「帰りに便箋買わなきゃ」
「誰かに手紙でも書くの?」
「葉織って言う11歳の従姉妹がいるんだけどね、私に会いたくて仕方がないみたいだから手紙を書いてあげようと思って」
「へえ、従姉妹いるんだ?」
「うん、素直で可愛い子なんだ。舞台女優を目指しててスクールに通い中なの。きっと隼人もあの子の演技を見たらファンになるよ」
「じゃあ相当演技が上手いんだな。もし会う機会があれば是非拝見させてもらおうかな」
.