第28章 マーマレード-アサゲ-
「でもさ、矛盾してると思わないか?『鉄は熱いうちに打て』と『急いては事をし損じる』って」
「そ、そうだね…それは確かに…」
「待つのは構わないけど、逃したくはない。まぁ取り敢えず、旨い味噌汁とポテトサラダが戦果ってことにしておくかぁ。お世辞抜きで本当に旨いよ、これ!」
「…あ、明日の朝も食べる?」
気恥ずかしさを覚えつつも、私は尋ねた。告白されたことを抜きにしても、彼が美味しそうに食事をする姿には心惹かれるものがあった。
こんなに美味しそうに食べてくれるなら、もっと色々作ってあげたい───そう思わせる笑顔なのだ。
「うーん…そうしたいのは山々だけど、今は止めておく」
「……『今は』?」
「その楽しみは、結婚した時のために取っておく」
「っ!!」
「毎朝、立花が俺のために作ってくれるご飯が嬉しくて、みんなに自慢しちゃうかもな」
急な話に頬を赤らめながら困っていると、隼人は小さく笑う。
「困らせたくて言った訳じゃないけどさ、俺が本気であんたのことが大好きで仕方ないって事だけは覚えておいてほしい」
不敵な彼の笑みに───私はもう俯くしか出来なかった。
✤ ✤ ✤
「(そう言えば、昨日、葦切さんに会ったことを話すの忘れちゃった。)」
『っていうか男はみんな好きだろ!!胸が!!』
「…会ったことは話さない方がいいかな」
巡回に出た私は書店を訪ねた。
「こんにちは」
「あ!待ってたよ!今日は一冊また新しい和綴じ本があるよ!」
「本当ですか!有難うございます」
「もっとも、何も起きなさそうだけどね。ぺらっと見てみたけど」
「安全と確かめられるだけでも充分です」
彼の言う通り、その本に怪しい感じは全くなかった。まだ表紙にも傷一つなく、真新しいものだと分かる。
「…本を売りに来る方って、名前や住所を書くんですよね?」
「まぁそういう決まりにはなってるけど、古本なんかは適当に書いてく人が多いよ。身分証明書なんて、そもそも持ってる奴の方が少ないしねぇ」
「やはりそういうものなんですね」
「ところでどう?その本は大丈夫そう?」
「はい。並べていただいて大丈夫です」
本を返し、私は店の外に出た。
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