第2章 新しい居場所-フクロウ-
「…君、見た目に反して強気なんだね」
「え?」
「ちなみに僕がどんな小説を書いてるか知ってる?」
「ええ、もちろん。でも恋愛小説は苦手なので読みたいとは思いません」
「紫鶴さんにそこまではっきり言う人初めて見た」
横に立っている男性は驚いたように言った。
「君、社会人としてもう少し社交辞令を身につけた方がいいよ。人間関係を円滑にするためにね」
「き、傷付けてしまったのなら謝ります…。確かに本音とは言え、もう少しオブラートに包んで発言すべきでした…」
「無自覚が一番怖いよな」
「う……っ」
呆れたような冷めた男性の言葉に、心が折れそうになった。
「本当に傷付けたと思うなら、これから僕とお茶をしに行っておくれ」
「それとこれとは話が別です」
スッと真顔に戻る。
「じゃあ明日はどう?」
「先生…しつこいと申し上げたはずですが」
「はは、君は本当に面白いね。あと僕のことは『先生』とか『金魚売りさん』なんて呼ばなくていいよ。愛情を込めて『紫鶴さん』で」
「愛情は込めませんけど紫鶴さんですね」
「素っ気ない君も良いね。じゃあ僕はこの金魚を戻さないといけないから。またアパートでね」
紫鶴さんはやけに優雅な仕草で金魚の天秤を担ぎ、ゆったりと歩いて行った。
先程の男性も、もういなかった。
「(彼もフクロウなのかな…?名前…聞きそびれた…あとで聞けばいいか。)」
私は夜に染まり始めた空を見上げ
暫くそこに立ち尽くしていた。
✤ ✤ ✤
「…あの人の言動は真に受けないようにしよう。総て返すと逆に喜びそうだし。金魚売りさん…いや、紫鶴さんか…」
アパートに戻った私は微妙な自己嫌悪に駆られ、また温室に逃げ込もうとしていた。
「嘘でも読んでるって言った方が良かったのかな…でも恋愛小説が苦手なのは本当だし…」
ぶつぶつと呟きながら
裏庭を歩いていた時だった。
「…え!?」
不意に、薄闇に青っぽい炎が見えた気がして自分の目を疑った。少し目を凝らすと誰かが何かを燃やしている。黒っぽい人影は、小柄な男性に思えた。
「(すぐ側に焼却炉があるのに…?)」
その人影の足下に鬼火のようにまた炎が灯る。一つ、また一つ。
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