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たとえば君が鳥ならば【ニルアド】

第2章 新しい居場所-フクロウ-



「何やってるんだよ、紫鶴さん」



「…え?」



いつの間にか側に来ていた男性が、白けた眼差しをその金魚売りに向けている。



「何やってるって、それはもちろん可愛い子を口説き落としてるのさ」



「(やっぱり口説き落としてるんじゃない…!)」



「でもこれがなかなか難しくてね、今もどんな方法で彼女の機嫌をとってお茶に誘おうか考えてるところなんだ」



「機嫌が直ったとしても、下心が見え見えの時点でご一緒する気はないです」



「加えて辛辣だろう?これでもめげないように頑張っているんだよ」



「(本当にしつこいなこの人…!)」



「その子だよ、フクロウの新人。
今日引っ越して来たはず」



「あれ」



その金魚売りの男性が、私を頭のてっぺんから爪先までしげしげと眺める。



「新人ってまた女の子だったんだ!」



「そうだよ」



「そうかそうか、これでまた更にアパートに艶やかな花が咲くことになるね」



彼は立ち上がり、私にすっと握手を求めた。



「ようこそ。僕は汀紫鶴。諸事情であのアパートに厄介になってるんだ、これからよろしくね」



「……………」



一瞬、その手を握り返すのを躊躇ってしまう。



「どうしたの?まさかさっきのあれで怒ってるわけじゃないよね?」



「いえ…そういうわけじゃ…」



汀さんの手をじっと凝視めたまま体を硬直させる。男性と握手をするのは別に変じゃない。この差し出された手を、握り返すだけ…。



「……………」



ごくっと緊張から生唾を呑み、恐る恐る握ると、汀さんがぎゅっと掴む。その途端、私は微かにビクッと体を小さく跳ねさせた。



「!」



あれ…何か花の香り…?



汀さんから、ふわりと甘い香りが漂う。



「…よろしく、お願いします」



「もちろん。仲良くしようね」



すっと手が離れるも、彼は微笑んだまま私を凝視めている。



「ところで」



「!」



「僕のこと知ってる?」



「名前なら先ほど名乗られましたけど…」



「そういう意味じゃなくて」



「?」



「僕が何をしている人かってこと」



「作家さんですよね?」



「良かった、知っててくれたんだ」



「でも先生の作品は読んだことありません」



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