第27章 彼とコロッケ-リソウ-
「あら?もしかして、すっごく理想が高いとか?」
「いやぁ、俺は違うと踏んでるね。実は隠してるだけで、絶対に惚れた女がいると思うんだよ」
「!?」
あからさまに反応を示した私の態度を見た柾さんは、にやり、と含んだ笑みを浮かべた。
「何故そう思うんです?」
「いやだって、実際あいつ本当に人気あったんだよ。顔も頭も良いし、テニスとか運動全般も得意でさ」
「わー!すっごおーい!
非の打ち所がないじゃないですか!」
「(…柾さんがさっきから、ちらちら私を見てるのは気のせいだろうか…)」
私はズズ…と紅茶を飲む。
「もしかして、家柄も良かったりします?」
「え?ああ…そこそこだと思うぜ。爵位とか、そういう高貴な血筋ってわけじゃないけど。まぁ家柄なんて意味ないから。要は本人だろ、本人」
「それは確かに」
「とにかく、何人の女達が言い寄ったか分からないぜ?風の噂じゃ、すげー美人の新劇の女優とかまで振ったらしい」
「(…新劇の女優さんを振るなんて…)」
「それに以前に一度だけ、ちらっと零したことがあったんだよな。逢いたいとか何とか」
「……………」
「でも、詳しいことを追求しても頑として口を割らなくてさ。気になるだろ?」
「ふぅーん、女優さんまで振る程、一途に恋い焦がれている、でもその想い人の素性は決して明かさない…ということですか。それは確かに気になりますねぇ?」
そこで柾さんは、やけに思わせぶりな眼差しで私を眺めた後、言った。
「(紅茶、おかわり頼もうかな…)」
「…葦切先輩。これは所詮、女の勘、というやつなのですけども」
「ん?どうした柾」
「私、その尾崎さんの想い人を知ってしまった気がいたしますの」
「(な、何を言い出すの柾さん…)」
「え!?何でだよ!?会った時にでも何か言ってたのか!?」
「尾崎さんが熱く狂おしい想いを捧げているのは今、私達の目の前に座っているお嬢さんではないかと」
「ごほっ!?」
私は飲んでいた紅茶でむせ返る。
「ま、柾さん!?」
「……………」
葦切さんはじっと私を凝視めている。
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