第2章 新しい居場所-フクロウ-
「(金魚を道で売ってる人初めて見た…)」
そっと歩み寄ると───。
「ボンジュール!そこの可愛いマドモアゼル!金魚は如何ですか?」
「!?」
いきなり声を掛けられて
私はびくりと後ろに飛び退いた。
「ああ、そんな逃げないで。この辺りじゃ見掛けない顔だけど、もしかして近くに引っ越して来たの?」
「まぁ…はい…」
「何なら家まで金魚を運んであげるよ。どのあたり?」
「……………」
どうしよう…
軽薄そうな人…
「家は遠いんです。
ちょっと私用で来たものですから…」
「何だ、そうなのか。
じゃあ、金魚は無理かなぁ」
「(金魚…。)」
「この子なんて凄く可愛いよ。指を近付けると嬉しそうに寄って来るんだ。まるで導かれるままに僕の所へやって来た君のように」
「女性を口説くのがお得意みたいですね?」
「口説くなんて酷いな。僕は純粋に君のような愛らしい人に金魚を貰って欲しいんだよ。そうすればこの子達も嬉しいだろうからね」
「ご期待に添えず申し訳ありません。大変かと思いますが金魚売り、頑張って下さい」
愛想を振りまいて立ち去る私を金魚売りの人は慌てて引き留める。
「待った!つれないなぁ、陽も暮れてきたしこれから僕と一緒にカフェでお茶でもどう?」
「お断りします」
「即断しなくてもいいじゃないか」
「しつこいです」
「じゃあ少しここで僕のお喋りに付き合ってよ。君はどんな話が好み?恋愛小説なんてどう?退屈させないよ」
「お生憎様、恋愛小説は苦手なんです。そんなにお喋りがしたいなら他の女性を口説き落としたら如何ですか?」
「僕は君に興味があるんだ」
「興味?」
「陽の光を吸い込んだような金色の髪と、青く澄んだ空色の瞳。僕は君のような女性を見たのは初めてだ」
「それだけの理由で口説き落とそうとしたのですか」
「まぁまぁ、そんなに怒らないで」
「……………」
「一番の理由は…僕を蔑むように見る、冷たい眼差しと心底嫌そうな顔かな」
語尾に音符マークを付けたであろう楽しげな声色に、私は眉を寄せ、顔をしかめた。
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