第26章 干からびたパン-ﾋﾄﾘﾀﾞﾁ-

「そして君の性格から考えると、見ず知らずの男に懸想されて何か言われたとしても、そこまでは動揺しないはず。恐らく丁重にお断りして終わるだろう」



「…そんなに冷静に分析しないで下さい」



「…となると、まぁ相手も薄々察しがつく。彼も君と同じくらい態度に出やすい。しかもそれを隠そうとしないのがまた腹立たしい」



「…し、紫鶴さ…」



「奴が失恋するように祈願しておくよ」



「………………」



「ああ、それと…さっき君、塩と砂糖を入れ間違えていたよ」



「！？」



「あはは、君のそういう顔を見るのは楽しい」



「もう！紫鶴さん！」



紫鶴さんは可笑しそうに笑った。



✤ ✤ ✤


「お、おはようございます…」



私は何故こんな泥棒のように、中の様子をこっそりと窺っているのだろう。



もちろんそれは───『彼』のせいだ。



「おはよう、立花。突然なんだが、今日は巡回を休んで隠さんの手伝いをしてやってくれないか」



「…隠さんの？」



「やぁおはよう。実は暫く研究にかまけていたら、書類やら資料やらが溜まってしまって」



「私よりツグミちゃんの方が隠さんのお役に立てると思うのですが…」



「久世は今日、隼人と巡回に行ってもらうことになった」



「！！」



「だからお嬢さんに頼みたい」



「良かったら手伝ってくれないかな」



「私でよければ」



即答したのには、理由があった。もちろんそれは───『彼』のせいだ。巡回の組み合わせ表には、私と隼人の名前が並んでいた。



「そうか、助かるよ。では行こう」



✤ ✤ ✤


「まずは、そこの棚の資料を日付順に並べ替えてくれないかな」



「はい、分かりました」



周囲には稀モノが沢山並んでいた。私にはアウラが見えないので光を見ることはないが、この部屋中がアウラの炎に包まれたら…と考えると少し怖かった。



「！」



ふと傍らの棚を見ると、パンが置かれていた。けれど無造作に包んでいるせいなのか、それとも本当に古いのか、硬くなってしまっているのが分かる。



「隠さん、ちゃんと食事はしてますか？」



「え？食べてるよ」



「パン…かなり干からびてますが」



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