第26章 干からびたパン-ヒトリダチ-
「少しくらい硬くなっても味に問題はないよ。それにパンは柔らか過ぎるより硬い方が好きだ。それは確か、四日くらい前に買ったものかな」
「よ、四日…も放置…」
「そんなにまずいことかな」
「まずいです、それは」
「………………」
「いいですか隠さん。パンだけの食事は栄養不足にも繋がります。それに野菜を摂っている気配もありません。体を壊す前にちゃんとした食事を摂ることを激しく勧めます」
「激しく…勧めるのかい?」
「勧めるんです。」
「美味しいんだけどな、パンだけでも」
「そのうち黴が生えたらどうするのです」
「うーん……」
「…一応聞きますが、外に食事に行ったりはしないのですか?」
「全く」
「…隠さん」
私はがっくりと肩を落としてしまった。
「とにかく、です!パンと紅茶だけの生活を続けていたら体を壊します!よって!野菜と肉と魚を摂取してください!」
「そう言われても、野菜も肉も魚も嫌いなんだよ。……というか、もっと言ってしまうと食べることが面倒で」
「そ、それを言われると…」
「料理なんてもっての外だ。その時間があったら本を読んでるか寝てる方がいい。ただ食べないと死んでしまうのも分かる。だから取り敢えずパンを齧っている」
「…あのですね…」
「大丈夫、もう成長期ってわけでもないし」
溜め息を洩らしそうになった時、書庫の隅に何個か転がっている空き缶に気付く。
「(……ジャム?)」
よく見ると、マーマーレードの空き缶だ。
「マーマーレードがお好きなんですか?」
「まぁ好きかな。でも最近は缶を開けるのが面倒で買ってないんだが」
もう開いた口が塞がらなかった。
「とにかく、黴が生える前にパンは食べきって下さいね」
✤ ✤ ✤
「お節介なんだと分かっていても、隠さんのあれはやっぱり良くない気がする」
書類の片付けで埃っぽくなった躯を洗い流し、やっと人心地つく。
「体調面も心配だし、もし倒れでもしたら…。大体、あんなに硬くなったパン、そもそも…齧れるの?」
思い出して、つい顔をしかめた時だった。
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