第26章 干からびたパン-ヒトリダチ-
昨夜は、殆ど眠ることが出来なかった。
ベッドに入っても目が冴えてしまい、何度寝返りを打っても気分転換に部屋の中を歩き回ってみても、眠気は降りてこなかった。
「(…今日の巡回って、誰とだろう。
もし隼人とだったら、また……)」
昨日は結局あの後、お互いに一言も喋らなかった。少なくとも表向きは淡々と仕事をこなし、午後7時きっかりに帰路についた。
「なぁ、それって趣味の掃除?」
「え?」
ただひたすら竹箒を動かしていると、やってきた滉が少し呆れたように私を見た。
「おはよう、これは当番の……」
「でも、今日の玄関掃除は俺なんだけど」
「え!?」
「札、見間違えた?まぁいいよ、俺が廊下やっとく」
「ご、ごめんなさい!」
「いや謝る程のことじゃないけど、それと…」
そこで滉が言葉を遮り、視線を逸らした。
「スカートのファスナー開いてる」
「!!??」
✤ ✤ ✤
「(…しっかりして。あんなことで気が抜けてたら今日の仕事なんて出来ない。私は仕事をするために、みんなの役に立つためにここにいるんだから。)」
「おはよう、お嬢さん」
「ひゃあ!?」
台所で朝食の支度をしていると突然紫鶴さんから話しかけられ、それに驚いてしまう。
「え?そこで何故そんなに動揺するわけ?」
「な、何でもないです!いきなり声を掛けられたから少し驚いただけです」
「ふぅん?」
紫鶴さんは物言いたげに私を眺めている。
迂闊に口を開くと一から十まで悟られそうで、私はその視線を無視してただ黙々と包丁を動かす。
「ねぇ、僕は基本的に君の作る朝餉を愛しているし、どんな状態でも味は変わらないと思うんだけどさ。……南瓜を、そんな親の敵のようにみじん切りにする必要ってあるわけ?」
「……あ!?」
「何か特別なことが…気もそぞろになるようなことがあったんだね?」
「な、何も?それにみじん切りにした方が中まで良く火が通って良いんですよ」
「……───男だ」
「な!?」
「さては告白でもされた?君はここに来てまだ日が浅いし、そんなに早く誰かと深い仲になるとは思えない」
「………………」
.