第2章 新しい居場所-フクロウ-
「(そうだ、せっかくだから明るいうちにさっきの温室に行ってみよう。)」
再び部屋の外に出た私は、温室に向かった。
「わぁ…───」
温室の中に足を踏み入れた瞬間
甘やかな熱気が私の肌に触れた。
そう広くはないけれど、色鮮やかな大輪の花々が競うように咲き誇っている。
「あ…長椅子がある」
私は大きく育った薊鉄の下に置かれたそれに、そっと腰掛けてみた。
「…寂しそう、か」
朱鷺宮さんに言われた言葉が心に刺さった。
「笑っていても、眼に宿る感情の色までは流石に誤魔化せないか…」
眉を下げ、ふと切なげに笑う。
「でも…朱鷺宮さんにそう見えたなら…」
それは───私自身の問題だ。
笑えないのだ、心の底から。
だって…鳥籠に囚われた『あの子』は
悲しそうに泣いている───。
「いつか…飛べるようになるのかな」
目を閉じると、瞼の裏側で昔の私──『あの子』が鳥籠の中で座って泣いている。今の私には『あの子』を助けてあげる事も、自由に空を飛ぶ羽根さえも与えてあげられない。
『あの子』が泣き止むには
『あの子』が笑顔になるには
『あの子』が空を自由に飛ぶには
きっと────……
「あったかい…」
ここは。この世界は。
私の背負う枷を、少しだけ、軽くしてくれる。
「少し眠ってもいいかな…」
光で溢れる暖かなこの場所が
今の自分を癒してくれそうな気がした。
この世界に、元の世界での私を知る人間はいない。
私の家族も、友達も───"あの人"も…。
「……………」
恐ろしいものは、何も。
私は長椅子の上で子供のように丸くなり、目を閉じた。
✤ ✤ ✤
「…この辺りは静かだな」
温室のうたた寝から目を覚ますと
空は既に茜色に染まっていた。
明るいうちに少しアパートの周囲を散策してみようと前の道に出る。
「(向こうに八百屋さんや乾物屋さんも見える。料理をするには困らなさそう。バスの停留所もある…あそこから乗ればいいのか。この世界のことは何も知らないから散歩も楽しいな。)」
そんなことを考えながら歩いていると───少し先に金魚売りらしい姿が見えた。
.