第24章 二つめの予兆-ビリヤード-(√)
「わぁ!私、ビリヤードって初めて見る!面白そうだね!是非行きたいな!」
「本当に!良かった!
立花が来てくれるなら絶対勝つよ!」
「………!」
彼のこの真っ直ぐ過ぎる物言いにはいつも驚かされる。紫鶴さんや杙梛さんのからかうようなそれともまた違い、反応に困ってしまう。
「(まぁそこが彼の良いところなのかも…)」
「よし、じゃあ行こう!」
言葉の終わり───不意に隼人が何の躊躇もなく私の手を掴んだ。
「っ!」
「あ!ごめん!」
彼はぱっと手を離し
それでも悪びれず明るく笑う。
「焦るのは良くないよな、悪かった」
「う、ううん…」
彼は不思議と機嫌が良さげにそのまま踵を返す。ほんの一瞬だけ触れた手が、やけに熱を持ってる気がした。
✤ ✤ ✤
「あれ」
「今晩は、杙梛さん」
「何だよ隼人、今夜は女連れかよ」
「俺の勝利の女神だよ」
「は、隼人!」
「言ってろ。じゃ俺は一勝負してくるわ」
───隼人の口振りから、てっきり小さな集まりだと思っていた。けれど貸切になった店内はキューを握る人で埋め尽くされ、しかも興味深いことに年齢も服装も様々だ。
「はは、そんなにビリヤードやる奴らが珍しい?」
隼人は可笑しそうに肩を竦めた。
「ううん、そうじゃなくて…いる人達が幅広いなって」
「え?ああ…そう、そうなんだ!ビリヤードが好きならどんな立場でも年齢でもいいんだ、この集まりは。まぁ流石に子供過ぎるのはまずいけとね。一番上は確か70歳」
「そんな方が!」
「学生、医者、運転手、豆腐屋のおっさん、公務員、作家…ちなみに女性も大歓迎だよ、ほら」
隼人に促され、台の方を見ると確かに何人もの女性がキューを突いている。
「立花が知ってそうな人…あ、あそこでやってるのが作家の平塚花鶏先生だよ」
「…あの方が。先生もビリヤードするんだ!」
「かなり強いよ。……まぁそんな感じだからさ、立花も気楽にしててよ。……そうだ、何か飲む?お祝いのダージリン奢るよ」
「あれは仕事だし」
「いいっていいって、俺の好意を有り難く受け取れ。おーい篠田ー!ダージリンと俺はいつもの頼む!」
「了解しましたー!」
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