第23章 愛を伝えるために-キセキ-
「何か良い方法は…」
持ち物は全部向こうに置いてきた。スマホで検索を掛けて調べることも出来ない。次の満月まで待つ気もない。
「どうしよう…あっちで滉が待っててくれてるのに…」
今もあの場所で一人、満月を眺めながら、きっと私の帰りを待ちわびている───。
「このままお別れなんて絶対に嫌…」
なんとしても帰る方法を探さなきゃ!
「まずは本屋に行こう。何か手掛かりを示すような本が置いてあるかも」
私はすぐに近くの本屋に駆け込んだ。
「(それらしき本は…)」
探してみるがやっぱり置いていない。来て早々にお手上げ状態だ。肩を竦めた私は溜息を吐いて落ち込んだ。
「!」
すると偶然視界に入った本の題名に釘付けになった。【好きな人に会いにいける魔法の本】。表紙は明らかに女児向けの可愛らしいデザインだった。こんなので本当に会いに行けるのか…と、あの世界に行く前の私なら完全にスルーしていた。
しかし今の私は違う。迷わずその本を手に取り、ページを開く。
【会いたい人に会いに行ける方法を教えちゃうよ♪】
【やり方はとっても簡単!目を閉じて、会いたい人の名前を心の中で強く唱えるだけ!】
【それだけでどんなに遠く離れた相手でも会いに行けるよ☆嘘だと思うなら試してみてね〜!】
「(絶対に嘘臭い。でも…もうこの方法に賭けるしかない。)」
本を閉じて棚に戻し、ゆっくり目を閉じた私は、心の中で彼の名前を強く唱えた。
「(会いたい、貴方に……滉───!!)」
その瞬間、周りの音が一瞬で遮断され、何も聞こえなくなった。
✤ ✤ ✤
───大正二十五年、トウキョウ府。
「……………」
音が聞こえなくなって不安になった私は恐る恐る、その瞼を押し上げる。視界に広がったのは…見慣れた公園だった。
「もしかして…ウエノ公園?」
空を見上げると星が綺麗に輝き、美しい満月が昇っている。辺りは静寂に包まれ、人の気配すらない。あるのは、花壇に植えられた花々と…寂しそうに満月を凝視める、彼の後ろ姿だった。
「戻って…来られた」
鼻の奥がツンとした。目頭に熱いものを感じたが、泣きそうになるのをグッと堪え、私は走り出す───。
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