第23章 愛を伝えるために-キセキ-
「……………」
もう、どのくらいの時間、こうして満月を眺め続けているだろう。彼女が向こうの世界に戻った後、硝子の扉は自然と消滅した。
真夜中ということもあり、少し肌寒さを感じた。それでも滉は、その場を動かなかった。
「(もし…戻って来る方法が見つからなくて、ずっと会えなかったら…)」
そう思うだけで背筋がぞっとした。やっと手に入れた存在が自分の前から消えてしまう。あの世界に、彼女を奪われてしまう。この手で守り抜いた大切な人を…失ってしまう。
「(やっと、俺だけのものになってくれたのに。傍にいるって誓ったばかりなのに。頼むから…あいつだけは、奪わないでくれ。)」
滉は必死な思いで、祈った。
「(詩遠……────!!)」
「滉───!!」
「…………っ!」
幻聴と勘違いする程、鮮明な声が聞こえた。
滉は後ろを振り返る。その視線の先には、自分の元に駆け寄って来る、愛おしい彼女の存在があった。
「滉……!!」
驚いた顔を浮かべていた滉だったが、私は構わず駆け寄り、涙を潤ませた笑顔で、彼を思いきり抱きしめた。
「良かった…帰って来れたよ」
「……………」
「滉?」
私を抱き竦めたまま何も言わない滉を不思議に思い、身体を離そうとすると、更にギュッと抱き締められてしまった。
「うっ……滉、少し苦しい」
彼の胸に顔を埋め、抱き締められる力に思わず苦悶の声を洩らす。そこで気付いた。私を抱きしめる滉の体が微かに震えていたのだ。
寒いのかな、とも思ったが、違った。
「(泣いてるの…?)」
声を押し殺して肩を震わせる滉からは啜り泣く声は聞こえない。でも泣いている気がした。そこにある存在を確かめるように抱き締めたまま離してくれない。
私は少し困ってしまって、滉の背中を優しく撫でる。
「ねぇ滉、顔を見せて?」
「…今非道い顔だから見ない方がいいよ」
「私も非道い顔してるから大丈夫。だからちゃんと貴方の顔を見せて」
そこで滉は漸く私から少し体を離す。彼の顔を見上げると、その目は少し涙が浮かんでいた。
「泣かないで」
「…泣いてないよ」
「ほら、ちゃんと帰って来たでしょう?」
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