第23章 愛を伝えるために-キセキ-
「"約束を破ってごめんなさい。誓いを守れなくてごめんなさい。幸せにならないと決めたのに…愛する人ができました。その人を誰よりも愛してる。彼と一緒に幸せになりたい。彼と共に未来を歩んでいきたい。だから…幸せになることを許して下さい。私はこれから彼の元に行きます。今までずっと私のことを気にかけてくれて有難う。さようなら…"」
「……………」
伝えたいことはまだたくさんある。彼との時間を後悔したことはない。むしろ感謝してる。悲しい時は側にいてくれた。困った時は手を差し伸べてくれた。それがどれほどの支えになったか、勇気づけられたか。彼がいなければきっと…私は駄目になっていた。
「詩遠…遠くへ行クのですカ?」
「うん」
「何処へ行くのデス?」
「私のことを世界で一番愛してくれる人のところだよ」
「後悔ハありまセんか?」
「後悔はないよ。自分で決めたことだから」
「もう…泣いたりはしませんカ?」
「泣くことはあるかもしれない。だけど…彼の優しさがあれば、私は大丈夫。私が好きになった人はとても素敵な人なの」
「…貴女は飛んで行くのでスね。鳥籠を壊して…好きな人のところまで」
「うん。そろそろ鳥籠は壊れる。傷付いた羽根は彼の愛によって完治したから…目の前に広がる空を自由に飛んで行くよ」
ガチャリと頭の中で何かが壊れた音がした。それは何をしても壊れなかった鳥籠の頑丈な鍵が開いた音だった。きっと本当の意味で私が幸せを望んだからだろう。
「(もう泣かなくていい。やっと…私は私の為に幸せを望める。罪悪感がない訳じゃない。でもこれで…滉と幸せになれる。)」
「…貴女のそんな顔ハ初めて見まシタ。本当に愛してイルのですね、その方を。心の底から幸せになりたいと思ウ人なのですネ」
「うん!」
「必ず、幸せになって下さい」
「約束する」
私は微笑みを浮かべた。
「もう帰るのデスか?」
「私のことをずっと待っていてくれる人がいる。その人の為にも早く帰らないと」
「そうですカ」
「じゃあ…さよなら──クロエ。」
「ハイ、さよなら…詩遠」
お互いに別れの言葉を告げ、私は長谷君に会わないまま、彼の屋敷を出た。
.