第23章 愛を伝えるために-キセキ-
「呼んでもらってもいい?」
「了解シましタ。中に入って待ってて下さイ」
クロエの案内で、客間に通される。長谷君を呼びに出て行ったクロエを待つ間、私は棚に飾られた写真立てを見つけた。
「(長谷君もまだ持ってたんだ。)」
それは私の手帳に挟んでいる写真と同じものだった。学生服を着た私と瑞希と長谷君が写っている。この頃はまだ幸せだった。
ガチャッ
「!」
「詩遠…せっかく来テもらって申し訳ないのでスが…叶斗様はお忙しイらしく、お会いにハなれないようでス」
「そっか…忙しいんだね」
「言伝があレば、伝えマス」
「じゃあ…お願いしようかな」
私は耳からピアスを外し、クロエに渡す。
「これを彼に返してほしいの」
「このピアスは…」
その意味に気付いたクロエが私を見る。
「愛する人が出来たのデスね」
「うん」
「貴女は幸せになルべきでス」
「……………」
「貴女はもう、自由になってイイのですヨ」
表情は変わらないのに、発せられた声はどこか嬉しそうにも聞こえた。
「クロエ、ごめんね」
「…何故、謝ルのでス?」
「私のせいで貴女は感情を持たずに生まれてきてしまった。私があの時…あんなことを望まなければ…貴女は…」
「貴女のせいデはありませン。それに私のこの感情は病気ナのです。詳しいことは分かりませんガ…私のことデ、貴女が謝る必要なドありませン」
「……………」
「このピアスは叶斗様にお渡しシますネ」
クロエは茜色のピアスを掌で軽く握る。
「クロエと過ごした時間は短かったけど…本当に楽しくて幸せだったよ」
「…何かあリましたカ?」
「何もないよ。ただお礼を言いたくなっただけ。私とずっと友達でいてくれて有難う。長谷君の側にいてくれて有難う。これからも貴女が彼を支えてあげて」
「私は叶斗様ガ望む限り、お傍にいマス。叶斗様が私ヲ見捨てない限り…ずっとでス」
「うん、よろしくね」
彼女を見ていると涙が込み上げる。
「言伝の話だったよね。今から言う言葉を長谷君に伝えてくれる?」
「ハイ」
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