第23章 愛を伝えるために-キセキ-
「その男!!私を襲おうとしたんです!!」
「何だって!?」
「な、何言ってるんだよ…詩遠ちゃん…?」
「早く捕まえて下さい!!」
「ち、違う…ボクは彼女の恋人だ…!」
「あ、お前!どっかで見たことある顔だと思えば!前に女子高生に乱暴して捕まった奴じゃねえか…!!」
「っ、うわあああ!!離せえええ〜〜!!」
「逃げんな!!」
「おい!そっちの足押さえろ!」
地を這いながら逃げようとする男を数人の住人達が囲んで押さえ付ける。
「警察に連絡しろ!」
「離せー!!詩遠ちゃぁぁん!!ボクのマイハニー!!助けてくれー!!」
無様な醜態を晒す男を軽蔑の眼差しで凝視め…
「さようなら」
冷たく言い捨てて、その場を立ち去った。
✤ ✤ ✤
震える身体を引きずって、汚れたナイフを公園の水道水で洗い流してから太腿に付けられた鞘に戻す。
「(一つ目は片付いた。後は……。)」
私はその足で、一軒の屋敷に向かう。高級住宅街を抜けた先に建つ、土塀に囲われた立派な長屋門。日本庭園のある和風屋敷だ。
「(あの頃と何も変わってない。)」
敷地に入ると天然石で造られた池と獅子落としが出迎えてくれる。植栽が植えられている脇に通路があって、そこを歩いて庭を観賞できるようになっている。
「(緊張するな…。)」
敷石を踏んで玄関に向かった私は、緊張を和らげる為に深呼吸をした。
そして呼び鈴を鳴らし、家の住人が出て来るのを待つ。数秒経って、戸が開き、中から現れたのは…。
「…久しぶり、クロエ」
「お久しぶりデス、詩遠」
機械的な喋りが特徴で、全ての感情が欠落してしまった友達。彼女の名前はクロエ。この屋敷に彼と共に暮らしている。
「えっと…元気だった?」
「ハイ、元気でス」
「(感情が顔に出ないから分かりづらいな…)」
心の病気を患っているクロエはいつも無表情だ。感情の全てが無い為、笑うことも、悲しむことも、怒ることも、喜ぶことも…泣くことだってない。
「貴女ガ此処に来ルのは珍しいですネ」
「うん…ちょっと長谷君に用事があって」
「叶斗様ハ書斎にいらっしゃイます」
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