第23章 愛を伝えるために-キセキ-
脇道にある狭い通路を歩き、ある場所に出る。そこではあの日と同じように階段の下で猫達が日向ぼっこしていた。
私は一度、目を閉じてゆっくり深呼吸をする。太腿に隠されたそれがあるのを確かめて、近づいてくる足音を待つ。
「(大丈夫、自分を信じて。)」
その時、背後に人が立つ気配を瞬時に感じた私は、機敏な動きで太腿からナイフを引き抜き、そのまま後ろ様に振り切った。
「ぎゃああああっ!!」
運良く振り切ったナイフはその人物の手を切っていた。汚い声を上げ、地面に倒れた人物は…あの日と同じように深めの帽子を被っていた。
「痛いー!!手が痛いよぉおお!!」
「ハァハァ…ッ」
私は震える両手でナイフを握りしめる。
「あぁ…血が…血が出てるじゃないか!!」
手を血で汚す男の野太い声に不快感が募り、私は顔をしかめた。
「私を突き落としたのは…貴方だったんだね」
「ボ、ボクのこと…覚えててくれたんだね!?う、嬉しいよ、詩遠ちゃん…!」
興奮しているのか、鼻息が荒く、目も血走っている。よろめきながら立ち上がった男は帽子を脱ぎ捨て、その顔を晒した。
「カフェで…偶然君を見かけたんだ。こ…これって…運命だよね?神様がボクを詩遠ちゃんに会わせてくれたに違いない!」
「……………」
「ゆ、ゆ…夢みたいだぁ…。また大好きな君とこうしてお喋りできるなんて…っ!やっぱりボク達は一緒になるべきだったんだ…!!」
相変わらず気持ち悪い男。あの時と何も変わってない。卑しくて、自分勝手で、話の通じないところが不快だ。
「む、昔より…もっと…き、綺麗になったね。あの時はまだ学生だったから幼さが残ってたけど…い、今は立派な女性なんだなぁ」
「……………」
「ハァハァ…体つきも色気が増して…む、胸だって大きくなって…あああぁ…初めて君を抱いた日を思い出すよ…!」
一人でベラベラ喋り続ける男を冷たい眼で見つめる。すると興奮していた男の目が私の耳に向けられた。
「な、何だよ…そのピアス…。茜色…その色…ボ…ボクは大嫌いなんだ…。それなのに…何でアイツと同じ眼の色をしたピアスを付けてるんだよぉぉぉぉ!!!」
男はいきなりブチ切れ、激怒する。
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