第23章 愛を伝えるために-キセキ-
───平成××年、東京都。
「……………」
眩い程の光が収まり、代わりに聞こえてきた人の声に私は恐る恐る瞼を開く。視界に広がったのは…見覚えのあるカフェだった。
「……え?」
私はあの時と同じ席に座っている。
「戻って…来れたの…?」
驚きを隠せず、周囲を見回す。スーツを着たサラリーマンや化粧直しをしているOL、それと女子高生がちらほら来店していた。
「(向こうの世界に行く前と同じ光景だ…)」
そこで私は、はっとして自分の体を触る。
「生きてる…?」
ちゃんと生身の体であり、体温も感じられた。別人の可能性も疑い、慌てて鞄に入っている鏡を取り出し、自分の姿を写した。
「私だ…良かった、生きてた」
心の底からホッとし、思わず涙が浮かんだ。
「(でも何で此処に?)」
疑問を抱いていると、私の後ろの席に女子高生が2人座る。
「ねえ今月号の雑誌、もう買った?」
「当たり前でしょ!だって表紙があの『長谷叶斗』だもん!」
興奮したように話す二人の会話が耳に入り、彼女達が口にしたその名前に顔をしかめる。
「(こんな時まで彼の名前を聞くなんて。)」
うんざりして溜息を吐く。
「特集ページに載ってる質問コーナー読んだ?」
「!」
「読んだ読んだ!」
「(あれ?)」
「特に気になったのが『好きな女性のタイプは?』っていう質問!」
「(この会話、前にもどこかで…)」
「"綺麗な瞳をしていて、一緒に幸せを願い、未来を共に歩んでくれる人"でしょ?」
「そう!」
「(やっぱりあの時と全く同じだ…!!)」
私はガタッと椅子から立ち上がり、すぐに"あるもの"を探し始める。そしてその"あるもの"は壁に掛けられていた。
【平成××年、××月××日】
カレンダーに記してある年号と日付が、あの世界に飛ばされた日だった。
「(時が巻き戻った…?)」
つまりは滉達のいた世界から無事に元の世界に戻って来れたのだ。何がキッカケで『この日』に巻き戻ったのかは分からない。
「(でも好都合。これから自分の身に起こる未来は既に知ってる。なら…私がすべき事は決まってる!)」
私は急いでカフェを後にした。
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