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たとえば君が鳥ならば【ニルアド】

第23章 愛を伝えるために-キセキ-



人の気配すら感じないウエノ公園には大きな満月の光に照らされた花々が美しく咲いていた。



「本当に扉なんて現れるのか?」



「分からない…。でもあの中で信用性が高かったのは間違いないの。大丈夫だと信じたい…」



【満月の光によって現れる、硝子で作られた扉の前に立ち、目を閉じて自分が帰りたい場所を心の中で強く願うこと】



あの噂がただのデマじゃないことを祈る。
横に立つ滉も満月をじっと見上げている。



「…あのさ」



「どうしたの?」



「今までずっと伝えられなかったことがあるんだ」



「何…?」



「知りたかったら絶対に帰って来て」



「今じゃダメなの?」



「一応…言うのに勇気がいるんだ」



「(気になるんだけどな…)」



どうやら今言う気はないらしい。彼のずっと伝えられなかったこととは一体何なんだろう。それを知る為にも絶対に帰って来なければ。



「じゃあ、帰って来たら教えてね」



私がそう言った時だった───。



「あ……」



声を洩らした滉の視線を追うと、そこには満月の光によって現れた硝子の扉があった。



「…本当に現れた」



「あれが…異世界に繋がる扉」



私は硝子の扉から洩れる輝きに目を奪われた。



「ここで待ってる」



「!」



「あんたの帰りをここでずっと待ってるから…早く俺のところに帰って来て抱きしめさせてくれ」



「……うん!」



涙ぐんだ顔で笑えば、滉は私の頬を撫でる。まるで永遠の別れを惜しむかのように。



「じゃあ…行ってくるね」



「あぁ……」



後ろ髪引かれる思いで滉の元を離れ、扉の前に立つ。振り返らない。彼の顔を見てしまえば、帰りたくなくなってしまう。



「(…怖い。元の世界の私の体、どうなってるんだろう。…ううん、考えてる暇はない。行こう、元の世界へ──!)」



目を閉じ、元の世界に帰りたいと強く願い、扉を開けて中を潜った。



「っ………!」



瞬間、目が開けられない程の強烈な光に包まれ、周りの音が全て消えた。そして、硝子の扉は消滅した。



「…必ず、帰って来てくれ」



滉は消えた扉をじっと凝視め、愛しい恋人の帰りを待ち続ける。



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