第22章 月に行きましょう-アイノカタチ-❤︎
「……………」
「でも俺はあんたのいるここに残るよ。爵位なんてなくても生きていけるなんて、えらく啖呵切ってたけど」
「あ、あれは!?」
「押し売りも知らなかったくせに」
「…だって、あの時は!」
「手が早くて見掛けより強情な割にはよく泣くし、世間知らずかと思えば鉄砲玉だし」
「……………」
「一瞬も目が離せないから側にいるよ」
大丈夫だろうか。悪い薬の効き目が切れて、明日になったらこう言ったことを忘れたりしないだろうか。私の糠喜びで終わらないだろうか。
「……───本当に?」
「本当に」
「いつか月に行けるようになったら一緒に行ってくれる?」
「もちろん」
彼が躊躇いもなくそう言ったので、私はやっと安心した。彼は、ちゃんと彼だ。私がずっと見ていた彼だ。
「……───明日の朝は、あんたの手料理が食べてみたいな」
「任せて」
「あと、スイーツも食べたい。
出来れば甘さ控えめだと嬉しい」
「うん、喜んで」
彼は何だかとても機嫌が良さそうだ。
きっと、今までで一番の笑顔だ。
「作ってる時は歌いながら頼む」
「…恥ずかしいんだけどな」
「あんたの世界の歌がどんなのか聴いてみたい」
「……検討します、一応」
「何で?いい声なのに」
「やっぱりあの時に聞いてたんだね!?」
「あの時も何も、あんたよく台所とか玄関で口ずさんでるじゃん」
「嘘!?」
「ほんと」
「…故意ではないの、故意では」
「多分みんな知ってるから今更隠すことでもないと思うよ」
「…現代の歌なんて聞かれたら困るよ。気をつけよう…あ、おじい様に教えてもらった歌を覚えよう!そしたら癖でその歌しか歌わなくなるだろうし…!」
「あんたの場合、そのうちボロが出そうだけどな」
「……………」
図星だから何も言えない。
「…明日の朝、ポテトサラダと目玉焼きとお味噌汁を作ろうと思うの」
「いいじゃん、美味そう」
───『明日の朝』。
何気ないその一言が、今はたまらなく嬉しい。
「…そう言えば、まだ言ってなかった」
私は彼をじっと凝視め、そして一番の笑顔で言った。
.