第22章 月に行きましょう-アイノカタチ-❤︎
「…体、平気?」
「うん」
「辛くない?」
「有り難う、大丈夫だよ」
「無理させた…ごめん」
ベッドの上でボタンを外してシャツを着た滉が後ろから私を抱きしめて謝罪する。
「…あのね、もう少し滉の傷が治ってきたら、みんなで温泉に湯治に行こうって」
「みんなで湯治?色気なさ過ぎ」
「でも、ほら燕野さんや美沙宕さんも誘おうって」
「はは、もっと色気ないな。何だよその大所帯」
「……嫌?」
「嫌じゃないよ。……───みんな相変わらずだなって呆れただけだよ」
「良かった…」
微笑む私の手を滉は優しく握る。
「病院で燕野と一緒になったから生きてたのは分かったんだけど、会う度うるさくて」
言葉の割に彼は楽しげで、私はほっとした。
「本当に…全然変わらなくてびっくりだ。隼人とか、明日の巡回の話するんだ。人使い荒いよな、こっちは退院してきたばかりなのに」
「ふふっ」
「翡翠は掃除当番のこと言い出して、朱鷺宮さんは来月にはまた巡査教習所行けるよなって」
「明日からまた掃除頑張って」
「あんたもか」
「ここの住人の務めですから」
「…そうだな」
彼は小さく苦笑して、私の指に唇を押し当てる。そんなことをされるとあの映画館での指の感触まで浮かんで、私の熱はなかなか引かない。
「……あ」
「どうした?」
「昼間、杙梛さんから…あの人のこと聞いたの」
「………………、……病院から逃亡したとは聞いたけど」
「うん。杙梛さんがね、昨日、ヨコハマの港に品物を受け取りに行ったんだって。そこで…出航する船の甲板に…あの人と、薔子さんが立ってたって。見間違いかも知れないけど、一応伝えとく、って」
「……そうか」
彼は小さな自嘲めいた笑みを浮かべ、私の肩に身体を預けた。
「……───この国には、きっともう戻らないな」
「…そうだね」
「きっともう…二度と会うこともない」
そう言った彼の瞳に、複雑な色が滲む。
「でも、俺は残るよ」
「滉?」
「…月を見ながらさ。本当にあそこに行けるなんて思ってはいなかったけど、ここじゃない何処かに逃げれば楽になれるかなって…思ってた」
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