第21章 この世で一番美しい炎-マモルモノ-
「そんな…だって…」
「可哀想に。好きでもない男に純血を奪われ、更には首に呪いのような跡まで付けられて。実に不憫に思うよ」
「(不憫?そんな安い言葉で片付けないで。私は…私の身体は…あの男のせいで…っ)」
「だが安心するといい。君を脅かす存在はもうこの世にいない」
「!どういう意味…?」
「言葉の通りだよ」
「(まさかあの男を…)」
改めて四木沼喬の冷酷さにぞっとした。
「私は本気で君が欲しい。滉など捨てて、私の元に来い。きっと退屈はさせない」
「(悔しい…)」
涙が、じわりと目に浮かぶ。
「(悔しい悔しい───!!)」
「涙で潤んだ君の顔も実に美しい」
泣くわけにはいかなかった。泣いても、この人を喜ばすだけだ。そしてどうにかして彼から離れて滉の元へ行かないといけないのに…。
「あの男じゃなく、私を愛せばいい」
「何を、言って…」
「卑しい血が流れるだけの滉より、正統な血を引く私の方が君には相応しい。もちろん…元の世界に帰す気はない」
「っ!!」
冷たい眼に凝視められ、体が硬直した。
「触る、な…」
「!」
「そいつに触るな…」
「滉……」
撃たれて出血が止まらない箇所を手で押さえ、苦しそうな、辛そうな、そんな表情で四木沼喬を鋭く睨みつける。
「(早く彼の元に駆け寄って抱きしめたいのに…今はそれが出来ない。)」
この切ない気持ちを必死に抑え込み、滉を凝視める。
「そんなにこの女が大事か?」
「!」
「……………」
「お前が彼女に好意を抱き、想いを寄せているとでも言うのか?薄汚い血を引くお前が」
「貴方はいい加減に…っ」
「…ああ、そうだよ」
「!滉…?」
「俺はそいつに惚れてるよ」
「っ…………」
「だから…そいつを泣かせて傷つける奴は、絶対に許せないんだよ…!」
彼の言葉に耳を疑って驚いた表情を浮かべる。
「滉……っ」
そしたら今度は涙が溢れた。彼の気持ちが嬉しくて。でもどこか切なくて、もどかしくて。どうにも出来ない感情に呑まれて、涙が頬を伝う。
それを見た四木沼さんの滉を見る眼が、より一層、冷たくなった。
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